戦闘機乗り 軽く握った操縦桿を、優しく左へ倒していく。ゆっくりと回転して機体を背面へ入れると、白々とした雲海が目の前に広がっていた。更に半回転して元に戻し、頭上に目を向ければ先ほどまでの雲は抜け、今はただ青々とした空がどこまでも続いているだけだ。
飛ぶには気持ちのいい天気だが、それは隠れる場所がどこにもないということだ。不意打ちは難しく、純粋な操縦技術だけが問われる空に、自然と気分が高揚し笑みが零れる。
「エルド、調子はどうだ」
無線を通じてリヴァイは仲間の様子を訊ねる。右後方にぴたりとついてきているF-15戦闘機、愛称イーグルのパイロットはエルド・ジン。まだ同じ部隊になって日は浅く、通信時の二つ名であるタックネームは付けていない。しかし間違いなく他の部隊であればエース級の腕前を持った男だ。
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