曇天の一幕もう晴れないだろう曇り空の下、壊れたコンクリートが散らばる地面を走り抜ける。
ここは既に閉じた世界。もう復興が望めない程に崩壊している。
人ももう殆ど居らず、このまま放っていても、星は滅んでしまうだろう。
それでも私がこの世界に、この時代に飛んできたのか、それは只仕事のため。EVEのデッキの強化のためだ。
ここにあるらしい、【時械神】のカードを探す為に――
事前調査で分かっていた事だが、この時代では殆どデュエルが行われない。理由は簡単だ。人が居ないからだ。
そのおかげで、時械神のデッキを扱う人物は突き止められている。
しかし、直接その人物の元に向かうことはできなかった。時械神の力か、それとも彼の持つテクノロジーか。
そうして彼の根城……アーククレイドルの外に飛ばされた私は、この崩壊した街をDホイールで走り回っている。
瓦礫だらけの道をクラッシュしないように何時もより安全運転で進む。
眼に映るすべてが廃墟だ。
G・O・Dがこの時代の人間に手を貸しても、その人間は望む結果を得られないだろう。それ程に"終わり"から長い時間が経っている。
いや、既に手を貸した人間がいたからこそ、こうなっているのだったか………?
ふと、まだ遠いアーククレイドルに目を向けると、青い何かがちらと見えたような気がした。
「………気の所為、か。」
少しアクセルを踏み込んでスピードを上げる。
代わり映えしない景色の中を走ること数分。アーククレイドルに近づくと、その大きさがはっきりと分かるようになった。
遠目に見た時より遥かに大きいそれは、近づくにつれ更に大きく見えてくる。まるで山のように巨大な建造物。
これだけ大きければ、室内もDホイールで移動できそうだ。
そんなことを考えていると、対向車線から一つのDホイールが走り抜けていく。
そして、Uターンをすると、私の隣に付けてきた。
「珍しいDホイールだ!それに、人も珍しい。一体何処から来たんだ?」
青いDホイール、青いライディングスーツ。灰色だらけの中で見た青は間違いでは無かったのか。
「………君は確か……アンチノミー、だったか。」
「……ボクの事を知ってるんだね、そんな君は一体誰なんだい?」
彼は警戒するように此方を見つめながら問いかけて来る。
「私は、私の名は『蓮』。調査に来た。」
「調査?こんなところに?」
彼が不思議そうな顔をする。それも当然だ。こんな場所にわざわざ来るような者など普通はいない。
そもそも人類自体が滅亡寸前なのだ。事前調査でも、生き残っている人間はもう1人しか居ないと聞いていた。
「調査と言っても、カードの調査だ。君も知っているんじゃないか。【時械神】のカードを。」
そう言うと、更に警戒が強まった。
「時械神?まさか、君も時を越える気なのか?」
「いや……もう時は超えられる。私が知りたいのは、カードそのもの。時械神のシンクロモンスターの反応……」
あまり仕事の内容をばらしては不味いのだが、アンチノミーはゾーンと深く関わりがあるようだから、大きな問題にはならないだろう。
「あの時械神に、シンクロモンスターが…………!?」
どうやら彼も知らないようだ。
本当は存在しないのか、それとも彼が知らないだけなのか。
やはり深く調査する必要がある。
「君はゾーンの部下なのだろう。案内してくれないか。」
「怪しい君をゾーンの元に連れて行くのは気が進まないけど………きっと止めても聞かないんだろうね。」
アンチノミーが呆れたように溜息をつく。
彼の言うとおりだ。もしここで案内されなくても、他の部下達、ロボット達が道を阻もうとも、何としてでも私は先に進むつもりだ。
「ああ。」
「なら、せめてボクとデュエルしてくれないかな?まさか、そのなりでDホイーラーじゃない、とか言わないでよ?」
確かに、このままでは流石に怪しすぎる。
デュエルで実力を見せれば、多少の融通も利くかもしれない。
「いいだろう。私も君の実力がどれ程なのか、気になっていた。」
握るハンドルに自然と力が入る。
「「ライディングデュエル アクセラレーション」」