思いはずっと夜風が頬を撫でる。
藍を溶かした空は変わらず星を輝かせていた。
昔、兄達と共に星を眺め、自由に星座を作った事を思い出す。
自由に架空の星座を作る遊吾。そんな星座は無いと否定する遊里。言い合う二人を諌める遊斗。
記憶が戻って、3人が居なくなって、どうしようもなく思い出してしまう。
オレにすべてを託し、幸せを願ってくれた皆の事を。
あの時に、一人でも前に進めると誓った筈なのに、ふと皆の事を思い出して、感傷的になってしまう。
「ここに居たのか、遊矢。」
声を掛けられ振り向くと、夜中でも目立つ白いマントとライダースーツに見を包んだ彼――蓮が立っていた。
探させるほど、外に長くいたのだろうか。そろそろ戻ろうかと思ったが、蓮がオレの隣に座るものだから、戻るのはもう少し後でもいいかと思えた。
「ごめん、探させちゃった?何か用?」
「ああ……その、なんだ。君が、辛そうだったから。少し話でもと思って来たんだが……」
デュエルした時の印象とは違う、口下手な彼に笑みがこぼれてしまう。
オレの事を心配してくれているのかと思うと嬉しかったのだ。
「ありがとう。そうだね……ちょっと昔のこと思い出してたんだ。」
「……そうか。」
それだけ言うと、彼は黙ってしまった。
出会ったときに付けていた仮面はもう無い。風に揺れる前髪の下には、遊吾によく似た青空のような瞳が覗いている。
ちらちらとこちらを伺うように見る視線。彼からしたら、励ましたいが何を言えばいいのかわからない。そんなところだろう。
こちらが助け舟を出してやるしかない。励まされる側がサポートをするなんて聞いたこと無いけど。
「蓮は、兄弟っていた?」
「いや、私は一人っ子だった。だが……」
そこで言葉を切って、少しだけ目を伏せる。
懐かしむような表情だ。
「素良は、弟のような存在だったな。」
「そういえば、君と素良は、EVEの元で一緒に行動してたんだよね。」
素良は、側で見てくれる黒咲や沢渡の元に残してきたが、蓮はあの二人よりも長い間素良と過ごしてきたのだろう。
もしかしたら、本当に家族のような関係だったのかもしれない。
「私が兄だなんて、本当に兄だった素良には強く否定されそうだが……素良と一緒にいる時間は楽しかった。」
「素良と別れて、寂しくない?」
問いかけると、蓮は一瞬目を見開いた後に微笑んで言った。
それは、どこか遠くを見るようでいて、大切なものを思い出すような顔だった。
まるで、自分の気持ちを確認するかのように、ゆっくりと言葉を選んでいく。
「そうだな………長い間共にいたから、居なくなるのは少し寂しかった。しかし、素良なら大丈夫だろう。彼が強く、芯の通った人間なのは知っている。私は素良が向こうでも元気にしていると信じているよ。」
「そっか……」
素良の話をしているときの彼の目は、とても優しいものだった。
その眼差しは、きっと彼が素良に対して抱いていた感情をそのまま映し出しているのだろう。
「……きっと、君の兄達もそうじゃないかと、私は思っている。」
「えっ?」
「こうやって改めて素良のことを考えて気がついた。遊矢。君は私から見ても強い人間だ。そんな君だからこそ、君の兄達は、思いを託したのだろう。」
思わず息を飲む。3人がオレに託してくれた思い。
彼らは今でも何処かで、オレを見守ってくれているのだろうか。『頑張れ』って、言ってくれてるのかな。
「うん………ありがとう、蓮。」
「だから、あまり根を詰めすぎるな。君には仲間がいるんだ。一人で抱え込まず、私達を頼って欲しい。」
真剣な顔をしていたかと思うと、ふっと柔らかく笑う。
その顔は遊吾にとてもよく似ていて、やっぱり本当に遊吾の子孫なんだな、と納得してしまう。
「ありがとう、蓮。オレ、皆の分も精一杯頑張っていくから!」
「ああ、応援している。」
風は冷たいが、なんだか心の中は温かい。
立ち上がって伸びをすると、星空がいつもより、ずっとずっと近くに見えた気がした。