面影「……ぁ………ゆ、遊矢………？」

G・O・Dのカードを遊矢が破り捨ててから暫くした後のことだ。
私達はG・O・Dの製造者を探すためにゲートの向こう側に足を進め、情報を集めていた。
外での調査の後、仮眠を取っていたはずなのだが、何か前髪を弄られる感触に目が覚めてしまったのだ。
薄っすらと目を開けると、そこには緑と赤の髪が見える。

「ごめん、起こしちゃった？」
「いや、大丈夫だ。……君も、仮眠を？」
「んー……そういうわけじゃないんだけど……」

いたずらを誤魔化すように遊矢は笑う。
ゆっくりと体を起こすと、遊矢に弄ばれていたであろう前髪がぱさりと元に戻って、視界に影を落とす。

「寝顔がさ、似てるんだ。」

だからつい、ちょっかい出したくなっちゃって、と。
懐かしむように目を伏せて遊矢は呟く。
きっと、いや間違いなく。彼が思い出しているのは彼の兄のこと。
彼が亡くした、大切な人のこと。

「君が言うなら、よっぽど似ているのだろうな……」

私の言葉に少しだけ驚いたような顔をして、それからまた笑みを浮かべる。

「……うん、その陽の光を集めたような髪も、青空を写した瞳も。」
「君がそんな顔をするのなら、また仮面でも付けるか。」

そう言って自分の口元に手を当てると、「えっ！」と遊矢から驚きの声が上がる。

「だ、駄目！仮面は付けないでいて。」

私の腕を掴み、年相応の抗議をする遊矢の姿に、つい笑みが溢れてしまう。
素良も、思い通りに行かないことがあるとこうやって抗議してきたのを思い出しながら。

「……思い出して、辛くならないか？」
「………もちろん、もう居ないんだって思って、悲しくなることもある、けど。蓮は、遊吾が遺してくれたものの1つだから。いや、蓮はモノじゃないことはわかってるんだけど………」

難しい顔をしながら必死に言葉を探している。彼の兄を想う気持ちは本物なのだ。それが痛いほど伝わってくる。

「蓮は遊吾の子孫で、それでいて、ワールドイリュージョンが起きなかった世界で産まれたでしょ？
オレは……ワールドイリュージョンが起きた世界で育って、ここまで来たけど……別の時間軸には遊吾が生きて、血を繋いだ世界がある。
そう考えると、たとえ別の世界の話だとしても、遊吾が遺してくれた君を守りたい、大切にしたいって思うんだ。」

そう語る彼の目はとても真っ直ぐだった。
流石は、G・O・Dの誘惑に打ち勝った人間だ。
この強い意志があるからこそ、彼の兄達は、遊矢に思いを託したのだろう。

「私は長い間時を過ごしてきたが………面と向かって守りたいと言われたのは、初めてだな。」
「あっ、いや！別に変な意味じゃなくてさ！」

私が苦笑いすると、慌てるように弁解を始める。
その様子がおかしくて、つい笑ってしまう。
先程まで真剣に思いを語っていたとは思えない姿。
彼はまだ子供だ。G・O・Dの侵攻を止めるために過去へ飛び、私達と戦ったとはいえ、彼自身はまだ幼い少年なのだ。

「ありがとう、遊矢。君の気持ちはよくわかった。」

ぽんっと頭を撫でると、照れたように頬を掻く。
私はとうに死んだ身だ。G・O・Dの力で肉体を全盛期の頃まで巻き戻し、あまりにも長い時間、その力でG・O・Dのために貢献を重ねてきた。

あのカードが破られた今、私を蝕む呪いは無く、肉体はまた息をし始めた。
今まで動いていた時間と比べると、すぐに止まってしまうだろう。それでも構わない。

今を生きている彼を守るため、この力を揮おう。