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    石砂糖

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    石砂糖

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    特に意味のないアブソーブ・E・坐塔とモブの話です モブ目線

    なんで紙パックなんですか?俺は最近、気になっている人がいる。
    と言っても詳細を聞けば恋バナかと沸き立った人も大人しく座るような取るに足らない程度のものだ。

    あれはほんの2週間ほど前の事。コンビニの商品の入れ替えに合わせるために登校時間を少し早めたことがきっかけだ。
    少し早い時間に行けば、普段は売り切れている商品たちも残っている。その日の昼食は選び放題だと内心うきうきしながらサラダチキンをカゴに入れていた。
    そのサラダチキンなどの惣菜が並ぶ2つ隣のコーナーに、同じ学校の生徒がいるのに気づいた。それが例の気になっている彼だったのだ。

    なんだか妙に上品なリュックを背負って、ブルー・グレーの髪を一つに纏めた男子生徒。うちの学校で髪を伸ばした男子生徒は少ないから、珍しいなと思ったのを覚えている。

    結局その日は選び放題になった昼食のメニューに夢中で、彼が何を見て何を買っていたかなんて覚えていないのだが、2週間経った今はなんとなくそれを推察できるような気がする。
    なんせそれから7回くらい彼がコンビニに居るところを見ているが、どの日も紙パックの紅茶だけを買って店を出ているからだ。
    昼食は弁当か売店で買う派閥の人なのだろうが、その紙パックの紅茶だけを買い続ける筋金入りの紙パック紅茶好きっぷりには恐れ入る。ペットボトルでは駄目なのだろうか。ちょっと質問してみたくもある。

    そんな彼だが、実は学年もクラスも知らない。同じクラスにいないことだけは確かで、なんとなく去年もどこかで見たような記憶があるから、1年でもないはずだ。
    といっても彼と何か話がしたいというわけではない。彼の方も俺なんかを知っているわけがないだろうし、もし知っていたとしてコンビニで見かけただけの人に話しかけられても困惑するだけだろう。

    だからただ偶然見かけて、ああまた今日もあの人は紙パックの紅茶を買ってるなあと思うだけでいいのだ。
    それ以上は何もない。

    そう思っていたのだが、突然俺達は邂逅を果たす。いつも昼食時に集まる席に座る友達が休んだから、急遽別の友達の席に集まろうとなって3つ隣のクラスへと赴いた時のことだ。

    偶然、その"別の友達"の席の隣には例の紅茶の彼が座っており、例のごとく紙パックの紅茶を飲んでいた。
    同学年だったのかと驚きながらも空いた知らない人の席を借りる。

    「知り合いなの?坐塔と。」
    「え、いや、コンビニで見かけるだけ。」

    友達はその紅茶の彼の事を坐塔と呼んだ。そんな名前なのかとは思いつつビニール袋から昼食のサラダチキンとパンを取り出せば、何故か友達はその話題に食いついてきた。

    「本当に?けっこうじろじろ見てたけど……」
    「ホントだよ、コンビニでも一回も話したことないんだから。」

    気になってはいるけど、という気持ちは心に押し留めてパンを齧った。

    「坐塔、一緒に食べない?」

    友達は遠慮というやつが無いのかもしれない。隣の席らしいから交流はあるのかもしれないが。しかしあの毎日紙パックの紅茶だけを買う……なんというか、変な人だと認識している彼と話すのには心構えが足りなかった。

    「……今日だけなら。」
    「おっけーおっけー、むしろオレらも今日だけだから、ここで食べんの。」

    そう言って友人は坐塔を招くと、席を移動させて4人で机を囲む形になった。
    初めて顔をまじまじと見て、初めて落ち着いた声をしっかりと聞いた。
    彼は売店で買ったらしいたまごサンドを静かに食べ始める。それに倣って俺達も食事を始めた。

    一人メンバーが入れ替わっても友人の騒ぎ様に変わりはない。知らないグループに入れられた坐塔がかわいそうだったが、当の本人は気にした様子もなく淡々と食事をしていた。

    俺はといえば少し緊張しながらも、友人と会話をしながらサラダチキンを食べていたのだが、隣に座っているせいでどうしても彼のことが気になってしまう。

    前髪がちょっと長い以外は特に目を引くような見た目でもないからたぶん、紅茶の事が気になってしまっているのだろう。一度気になるともう駄目だ。意識しないようにしても自然と視線が吸い寄せられてしまう。
    そうやって見ていると彼にも気づかれてしまったようで、目が合ってしまった。

    「ぁ」
    「……いつもサラダチキン3本買ってる人、ですよね。」

    恐る恐る、触っていいよと言われた蛇に手を伸ばすような様子で彼は俺にそう言った。
    ……どうやら彼も彼で俺のことをサラダチキンの人だと認識していたらしい。
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