Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

    文章や絵を投げます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💕 🍇 🐥 🍣
    POIPOI 419

    流菜🍇🐥

    ☆quiet follow

    最終決戦後の世界で滅四星と三皇帝が生き残り、チーム5D'sと交流していたら、という前提の元に書かれたクロウとルチアーノのお話です。ルチアーノがマーサハウスに連れていかれる話です。

    ##本編軸

    マーサハウス ルチアーノは退屈していた。
     プラシドはジャックと言い争いをしたままデュエルを始めてしまったし、双子はアポリアと出掛けたと告げられた。アンチノミーは遊星とDホイールの開発に夢中になっている。パラドックスは、今日は姿を現していないようだ。
     退屈だった。ガレージの隅から、ぼんやりと遊星の様子を眺める。アンチノミーは、かつて遊星の隣にいた時と同じブルーノの姿で、遊星と話をしている。
    「ルチアーノ」
     不意に、誰かから声をかけられた。振り向くと、仕事を終えたクロウ・ホーガンが立っている。見かねて声をかけてきたのだろう。
    「暇なら、出掛けないか?」
     意外な人物からの誘いに、ルチアーノは一瞬だけ面食らった。クロウは、チーム5D'sで最も関わりが薄かったメンバーだ。声をかけられるなど思いもしなかった。
    「どこに行くんだよ」
     動揺を隠しながら問うと、クロウはニヤリと笑った。少年のような笑顔だった。
    「それはついてからのお楽しみだ」
     シグナーは嫌いだが、退屈はもっと嫌いだ。あまり気は乗らなかったが、ついていってみるとこにした。
    「つまんなかったら承知しないからな」
     ルチアーノの毒舌を、クロウは慣れた様子で受け流す。
    「まあ、来てみろって」

     クロウの後を追って、ネオドミノシティを疾走する。ブラックバードはダイダロスブリッジを渡ると、旧サテライトエリアへと入った。
    「どこに連れてくつもりなんだよ」
     ルチアーノが尋ねるが、クロウは答えない。あくまでも、秘密にするつもりらしかった。
    「黙ってついてこいって」
    「僕に命令するなよ」
     その、余裕に満ちた態度が気に入らなくて、ルチアーノは毒を吐く。戦いが終わった今では、ルチアーノは敗者であり、シグナーは勝者なのだ。まだ、煮え切らない感情が残っていた。
     たどり着いた場所は、大きな家の前だった。旧サテライトエリアらしく、手入れの足りていないところや積み重ねられた年月は感じるが、どしんと構えた姿には貫禄があった。
    「この家が、どうかしたのかよ」
     尋ねると、クロウは神妙な面持ちでこう答えた。
    「ここはマーサハウス。俺たちの育った家だ」

     扉をノックすると、貫禄のある体型をした女性が姿を現した。屋敷の主人であるマーサだ。彼女はクロウの姿を見ると、嬉しそうに笑った。
    「おや、クロウ、もう着いたのかい」
    「ブラックバードを飛ばしてきたからな」
     クロウが答える。まるで、久しぶりに親に会った子供なような笑顔だ。そう思って、ルチアーノは居心地が悪くなる。
     マーサはルチアーノに視線を向けると、にこりと微笑んだ。
    「隣の子は友達かい?」
    「こいつはルチアーノ。龍亞と龍可の友達だ」
     クロウは答える。友達、と言われ、少しだけむず痒さを感じた。ルチアーノには、友達という関係性が分からなかったのだ。
    「よく来たね。さあ、お上がり」
     彼の心境など知らずに、マーサは家のドアを開ける。ドアが開くと共に、子供たちの賑やかな声が聞こえてきた。クロウの姿を見ると、我先にと駆け寄ってくる。まだ幼い子供から、ルチアーノと背丈の変わらない子供まで、幅広い子供たちが遊んでいる。
    「クロウ兄ちゃんだ!」
    「兄ちゃん、おかえり!」
     子供たちはわらわらとクロウを取り囲む。その熱量に、ルチアーノの足が止まった。
     子供の一人が、ルチアーノに気づいた。真っ直ぐに顔を見ると、不思議そうに首を傾げる。その後ろから、別の子供たちも様子を窺った。
    「君は?」
    「兄ちゃんのお友達?」
     咄嗟に声がでなくて、ルチアーノは返事に困ってしまう。同世代の子供と話すなんて、潜入任務以来だった。
    「こいつは、ルチアーノだ。仲良くしてやってくれ」
     代わりにクロウが答えると、子供たちはあっという間にルチアーノを取り囲んだ。
    「ルチアーノっていうんだね」
    「一緒に遊ぼう」
     左右から囲まれ、手を引かれる。どうしていいか分からないが、振り払うわけにもいかない。非難の眼差しを向けると、クロウが助け船を出した。
    「見た目はお前たちと変わらないけど、ルチアーノはライディングデュエルだってできるんだぜ」
     クロウの言葉に、子供たちは目を輝かせる。
    「本当!?」
    「ライディングデュエルができるの?」
    「見せて見せて!」
     子供たちが手を引く。抵抗もできないまま、家の外へと引きずり出された。
     クロウが、窺うような表情でルチアーノを見た。頼み込むような口調で言う。
    「ルチアーノ、子供たちと遊んでやってくれないか」
     最初から、こういう魂胆だったくせに。心の中で呟きながらも、ルチアーノは優越感を感じていた。子供たちに尊敬されるのは、嫌いじゃなかったのだ。
    「いいよ。どうせ退屈してたからさ」

     Dボードに飛び乗ると、子供たちは目を輝かせてついてきた。全速力で走り回り、疾走するルチアーノを追いかける。しばらく進んでからターンをして戻ると、彼らはルチアーノを取り囲んだ。
    「かっこいい!」
    「これでデュエルをするの?」
     子供たちが、矢継ぎ早に質問を浴びせる。
    「そうだよ。これは、Dボードって言うんだ」
     足元を示しながら、ルチアーノは説明した。
    「Dボード?」
     子供の一人が首を傾げると、
    「あれだよ。龍亞と龍可が乗ってるやつ」
     別の子供が返事をする。どうやら、龍可に渡したDボードを知っているようだった。
    「機能はあれと同じだけど、スペックは全然違うんだぜ。ほら」
     加速をつけて前進すると、くるりとUターンする。そのまま子供たちの前に出ると、華麗にジャンプアクションを決めた。
    「すごーい!」
    「かっこいい!」
     子供たちが拍手をする。
    「だろ。こんなこともできるんだぜ!」
     楽しそうに笑って、ルチアーノは次から次へとアクションを披露する。子供たちに尊敬されるのは、悪い気がしなかった。

     そんなルチアーノの様子を、クロウは少し離れたところで見つめていた。隣には、彼の育ての親であるマーサが佇んでいる。
    「あんたが連れてきたってことは、あの子もそうなのかい?」
     マーサが、ルチアーノの後ろ姿を見ながら尋ねた。
    「そうだよ。あいつも、災害で親を失くしたんだ」
     クロウは答える。彼がマーサハウスに連れてくるのは、両親を失っているか、親と離れて暮らす子供ばかりだった。
     クロウは孤児である。ゼロ・リバースによって両親を失い、マーサのもとでたくさんの子供たちと一緒に育てられた。この家を出てからは、セキュリティの目を掻い潜って盗みを働き、子供たちに分け与える義賊のような行動をしていたのだ。
     シティとサテライトが統合されてからは、配達の仕事を営みながら、子供たちの様子を見に来ていた。
     自分と同じような環境にある子供たちが、少しでも楽しく暮らせること。それが彼の願いだったのだ。
     クロウは、ルチアーノが孤児であることを知らなかった。数ヵ月前まで、彼らは敵対関係にあったのだ。ルチアーノはイリアステル三皇帝の一人として、人々の人生を操っていたし、クロウは彼らを憎み、非難の意思を向けていたのだ。
     今でも、彼らを許したわけではない。しかし、ルチアーノが孤児として背負った悲しみだけは、他人事とは思えなかったのだ。
     家の前では、ルチアーノがDボードを走らせている。子供たちの歓声を浴びた彼は、楽しそうに笑っていた。それは、今までに見てきた笑顔とは、少し違うような気がした。
    「あいつも、あんな顔をするんだな」
     クロウは呟いた。あの少年を連れてきて良かったと、心から思った。

     日が暮れる頃には、ルチアーノは子供たちのヒーローになっていた。今では、二対一でデュエルの相手をしている。
    「そろそろ帰るぞ」
     クロウが声をかけると、彼はデッキを仕舞って立ち上がった。クロウの元へと歩み寄る。
    「ここの子供たちじゃ、相手にならないな」
     言葉とは裏腹に、声色は楽しそうだった。
    「もう帰るのかい?」
     Dホイールを起動するクロウに、マーサが声をかける。
    「遊星たちが待ってるからな」
    「そうかい」
     今度は、子供たちがクロウを取り囲んだ。寂しそうな声で、口々に言う。
    「クロウ兄ちゃん、もう帰っちゃうの?」
    「もっと遊びたい」
     クロウは、膝をついて子供たちに目線を合わせた。優しく微笑んで、言い聞かせるように言葉を告げる。
    「また来てやるから、いい子で待ってろよ」
     ルチアーノの周りにも、子供たちが集まってきた。楽しそうに笑いながら、口々に言う。
    「また遊びに来てね」
    「今度は、Dボードの乗り方を教えてよ」
     どうやら、子供たちに懐かれてしまったらしい。面倒だったが、なぜか悪い気はしなかった。
    「すっかり人気者だな」
     クロウが茶化すと、ルチアーノは小声で返す。
    「嬉しくないけどね」
    「そのわりには楽しそうだな」
    「……うるさいよ」
     そんなルチアーノの元に、マーサが歩み寄った。優しい笑みを浮かべると、子供に接するように言う。
    「いつでも遊びに来ていいんだからね」
     ルチアーノは困惑した。これまで、他人に優しくされたことなど無かったのだ。どう返事をしていいのか分からなかった。
    「また来るぜ。なあ?」
     クロウに促され、こくりと頷く。この家の中では、調子が狂うことばかりだった。
     Dボードに乗ると、シティに向かって出発する。子供たちは、姿が見えなくなるまで二人を見送ってくれた。
    「クロウ兄ちゃん! ルチアーノ! また来てね!」
     背後に投げられる声を聞きながら、ルチアーノは思った。純粋に他人に好かれるのは、いつ以来だろうか。人間の敵として生きてきたルチアーノにとっては、気が遠くなるほど昔のことだ。
     ルチアーノは子供なんて嫌いだ。何をしでかすか分からないし、知識に差がありすぎて会話も成立しない。そもそも、彼は友達なんて要らないと思っているのだ。
     それでも、この家の子供たちは不快ではなかった。純粋にルチアーノを慕って、仲間のように接してくれる。その姿はまるで龍亞と龍可みたいで、なんだか落ち着かなかった。
     後ろからはまだ子供たちの声が聞こえている。彼らの声を聞いていると、こういうのも悪くないと思えるのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏🙏😭🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator