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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    流菜🍇🐥

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    付き合って1年くらい経ってそうなTF主ルチ。落ち込んでるTF主くんがルチにはよしよしされる話です。泣いてるTF主くんと妙に優しいルチがいます。

    ##TF主ルチ

    慰め 玄関のドアを開けると、覚束ない足取りで室内へと上がった。重くなった身体を引きずるようにリビングへと向かう。音を立てながら荷物を下ろすと、そのままソファに倒れ込んだ。
     僕の部屋の方から、とことこと足音が聞こえた。リビングの入り口辺りで、ピタリと止まる。ルチアーノが、僕の様子を見に来たのだ。
    「帰ったなら、ただいまくらいは言いなよ」
     声をかけられるが、今は返事をする気にはなれなかった。声を上げたら、泣いていることに気づかれてしまう。そんな姿だけは見せたくなかったのだ。
     僕は、隣県で開催された大会に参加していた。小規模ではあるが、いつものようなアマチュア大会ではなく、ちゃんとした公式大会だ。結果を出せば公式記録としてデュエル史に刻まれ、成績優秀者はプロデビューの可能性もある。アマチュア大会の優勝者がプロを目指すための登竜門と呼ばれるような、そんな大会だったのだ。
     優勝できるなんて、端から思っていなかった。それでも、自分がどれくらいの実力を持っているのかを知りたい。その一心で、僕は大会にエントリーした。ルチアーノは僕の決意を面白がり、からかいながらも後押しをしてくれたし、友達も揃って応援してくれた。
     この日のために、たくさん練習を重ねてきた。遊星たちやルチアーノにも手伝ってもらって、ありとあらゆるデッキと対戦した。何度も構築を見直したし、過去の成績上位者のデータだって調べた。僕は、この大会で結果を残すために、あらゆる努力を続けてきたのだ。
     でも、結果は予選敗退だった。公式大会に参加するようなデュエリストは、腕に自信のある者ばかりだ。アマチュア大会で優勝するようなレベルの人間なんて、彼らの敵ではなかったのだ。
     悔しかった。デュエルは僕の全てだったのだ。デュエルだけなら、誰にも負けないと自負していた。実際に、誰にも負けることはなかったし、一度はキングの称号を得た遊星とも対等に戦っているのだ。ルチアーノに勧誘されたのも、デュエルの実力があったからだと思っていた。
     でも、現実は甘くなかったのだ。公式大会には、僕よりも強い相手がたくさんいた。自分が井の中の蛙だと思い知らされたのは、何よりも痛かった。
     ルチアーノが近くまで歩いてくる。気配と足音がソファの隣まで来て、ぴたりと止まった。
    「大会、だめだったんだな」
     頭上から、ルチアーノの声が降り注ぐ。慰めているわけではないが、からかうつもりもない、少し困っているような声だった。
     彼は、戸惑っているのだろう。これまで、僕が彼の前で弱みを見せたことは、ほとんど無い。どう声をかけていいか分からないようだった。
    「君が努力してたことは、みんな分かってるよ。だから、元気出しな」
     拙い言葉で、彼は僕を元気付けようとする。彼らしくない、優しい態度だった。その気遣いが、余計に苦しく感じてしまう。
     泣きそうになるのを、必死で堪えた。ゆっくり立ち上がると、ルチアーノに背を向ける。
    「ごめん。今日はひとりにさせてほしい」
     声が震えるのを隠せなかった。背後から、ルチアーノの戸惑いを感じる。困らせてしまっているが、気遣っている余裕はなかった。
     部屋を出ると、着替えを持って浴室へと向かった。蛇口を捻って、シャワーを浴びる。熱いお湯を浴びていたら、涙が溢れてしまった。小さな声で嗚咽を漏らしながら、湯と共に感情を流していく。
     ルチアーノは、僕の様子を見に来ているかもしれない。彼は、ああ見えて心配性なのだ。扉の外で僕の泣き声を聞いていたとしてもおかしくない。
     泣き声を聞かれていると思っても、不思議と恥ずかしさはなかった。むしろ、自分の弱さを見せて心配してもらえたことに、ある種の嬉しさを感じてしまっている。弱みを見せたら軽蔑されるんじゃないかと思っていたのに、思ったよりあっさり受け入れてもらえて、安心したのだ。
     しばらく泣いたら、少し気持ちが落ち着いた。洗面所へ出て、寝巻きに着替える。
     遠征もしたことだし、身体はずっしりと重くなっていた。温かいところで、ゆっくりと眠りたい。食事も取らずにベッドに入り、目を閉じた。泣きたくなんてないのに、涙はポロポロと瞳から溢れ落ちる。僕は、自分が思っていた以上にデュエルに執着していたんだなと、初めて気がついた。

     目が覚めたら、隣にルチアーノが寄り添っていた。つかず離れずの絶妙な距離で、僕の様子を窺っている。目を覚ましたことに気づくと、小さな声で話しかけてきた。
    「少しは落ち着いたかよ」
     まだ、あまり気分は良くなかった。油断していると涙が溢れてしまいそうだ。起き上がる気力も起きない。
     首を横に振ると、ルチアーノは小さく溜め息をついた。困ったように視線を巡らせると、恐る恐る両腕を広げる。
    「ほら」
     恥ずかしそうに頬を染めて、小さな声でそう言った。
     僕は、呆けた顔でその様子を見つめていた。行動の意図が、すぐには理解できなかったのだ。察しの悪い僕を見て、苛立たしそうに言う。
    「慰めてやるって言ってんだよ。さっさと来な」
    「いいの?」
     僕は尋ねた。ルチアーノは、人間のご機嫌取りなんて嫌がるだろうと思っていたのだ。できるだけ迷惑をかけないように、ひとりでいようと思っていた。
    「早くしないと、気が変わるかもしれないぜ」
     ぶっきらぼうな口調で、彼は言う。恥ずかしいのか、視線は合わなかった。
     僕は、ルチアーノの胸に顔を埋めた。子供特有の燃えるような温もりが、じわりと身体に伝わる。ルチアーノは一瞬だけ身をこわばらせてから、恐る恐る僕の身体に腕を回した。
     その温もりを感じていたら、涙が溢れてしまった。小さな胸に顔を埋めて、涙を流す。一度壊れると、涙腺はコントロールが効かなくなった。嗚咽を漏らしながら、ポロポロと涙を流す。
    「ねえ、ルチアーノ。僕は自惚れてたのかな」
     息を整えてから、僕は口を開いた。冗談めかした言い方で安心させようと思ったのに、声は震えて、鼻声になってしまった。
     ルチアーノの手が、優しく僕の背中を撫でる。小さく息をつくと、彼は口を開いた。
    「気にするなよ。どんなに強いやつだって、負けるときは負けるんだから」
    「やっぱり、努力が足りなかったのかな」
    「君は努力してたよ。僕が保証する」
    「でも、負けたら終わりなんだよ」
    「今日は調子が悪かっただけだろ。デュエルなんて運なんだから」
    「でも、運も実力のうちって言うでしょ」
    「お前、面倒くさいやつだな」
     ルチアーノは囁く。言葉とは裏腹に、その声は優しかった。
    「気にするなよ。君はちゃんと実力を持ってる。僕の認めたパートナーなんだから」
     彼がこんなことを言うなんて、信じられなかった。彼は、常に人間を見下しているし、自分至上主義なのだ。もしかしたら、僕を安心させるために言いたくもないことを言っているのかもしれない。そう思うと、自分の不甲斐なさに嫌気が差す。
     大人のふりをしていても、ルチアーノは子供なのだ。子供に、こんなことを求めてはいけない。僕がしっかりして、ルチアーノを支えてあげないといけないのに。
     でも、僕もまだ子供なのだ。完全な大人にはなれないし、感情に振り回されてしまうこともある。大人というものは、近いようで遠いのだ。
    「ルチアーノ」
    「なんだよ」
    「ごめん」
     鼻声で謝ると、彼は大きく溜め息をついた。呆れたような声で言う。
    「気にするなよ。今日は子供みたいに泣け。泣いて、とっとと忘れろ」
     その言葉は、僕の枷を完全に外したみたいだった。涙がポロポロと流れて、嗚咽が漏れる。ルチアーノの胸に顔を埋めながら、僕は体力が尽きるまで泣き続けた。

     気がついたら、部屋に朝日が差し込んでいた。隣では、ルチアーノがすやすやと寝息を立てている。時計を見ると、まだ明け方だった。
     いつから眠っていたのだろうか。頭はすっきりとしていて、気分は落ち着いていた。
     そっと布団を抜け出して、リビングへと向かう。夕食を食べていなかったから、お腹が空いていた。キッチンの棚から、ホットケーキミックスを取り出す。隣に並んでいるのは、小さなフルーツ缶だ。冷蔵庫には、絞るだけのホイップクリームがある。
     説明書の通りに粉を混ぜ、フライパンに流し込む。焼けるのを待っていると、ルチアーノがやってくる足音がした。
    「おはよう、ルチアーノ」
    「いつの間に起きたんだよ」
     声をかけると、不満そうな返事が返ってくる。いつものルチアーノだった。気を遣われていないことに安心する。
    「さっきだよ。お腹がすいたから、ホットケーキを焼いてるんだ。ルチアーノも食べる?」
    「クリーム無しならな」
     ぶっきらぼうに返事をして、ルチアーノは席に着いた。慰めてもらったお礼に、一枚目は彼に譲ることにする。焼けたばかりのホットケーキを皿に盛り付けると、小さく切り分けたバターを乗せる。
     二枚目は、自分のためのものだ。じっくりと焼き目を付けてから、ホイップクリームとフルーツを乗せる。わくわくしながら机へと運ぶと、ルチアーノが呆れたように言った。
    「よく朝からそんな甘いものが食えるよな」
    「好きだからね」
     二人で向かい合って、ホットケーキを食べる。ホイップクリームの甘味と、フルーツのすっぱさは、ホットケーキによく合うのだ。おいしくて、ぺろりと片付けてしまった。 
     クリームを頬張る僕の姿を、ルチアーノは安心したように眺めていた。切り分けたケーキを口に運び、もそもそと咀嚼する。
    「君も、あんな風に泣くことがあるんだな」
     不意に、ルチアーノは呟いた。昨夜のことを思い出して恥ずかしくなりながらも、包み隠さずに答えた。
    「僕だって、落ち込むこともあるんだよ。いつもは隠してるだけなんだから」
     僕にだって、感情がある。悲しいことはあるし、苦しいこともある。でも、ルチアーノの前では、それを見せたくないと思っていた。悟られないように、包み隠していたのだ。
     だって、ルチアーノは僕よりも苦しんでいるのだ。夜中に泣いていたり、悪い夢を見てうなされたりしている。たまに不安定になることもあるのだ。そんな彼の前で、弱い姿なんて見せられない。
     でも、ルチアーノはそれが不満らしかった。不快そうに鼻を鳴らすと、突き放すように言う。
    「僕は、君にも弱みを見せてほしいと思うぜ。だって、僕たちはパートナーなんだから」
     彼らしくない言葉だ。きっと、僕への気遣いから出る言葉ではないのだろう。見栄を張っている僕への、ささやかな抵抗なのだ。
     僕は、無意識にルチアーノの前で格好をつけていたのかもしれない。恋人の前でかっこいいところを見せようと、強いふりをしていたのだ。それが、彼は不快だったのだろう。
    「分かった。これからは、もっとルチアーノに甘えるね」
     昨日の夜、僕をなだめるルチアーノの手付きは、普段からは考えられないくらい優しかった。それは、僕がいつもルチアーノにしていることだ。彼は、僕がしていることを学習して、僕に返してくれたのだ。
     ルチアーノは、確実に変化している。お互いに弱みを見せ合ったことで、僕たちの関係は新しい次元へと進んだ。これからは、もっと近くで支え合うことができるだろう。それが、僕には嬉しかった。
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