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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    流菜🍇🐥

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    破滅の未来のレジスタンスに関するお話です。蘇った英雄の秘密を知るジョニーくんの話。少しチノゾンっぽく感じるかもしれない描写があります。

    ##本編軸

    虚像の英雄 その集落は、朽ち果ててボロボロになっていた。建物の半分は形を失い、住み処としての役割を失っている。まだ形を保っている家々も、壁の塗装が剥げて剥き出しになった内部を、ビニールシートで覆って補強していた。人が住めるのか分からないほどに破損した建物は、鉄骨やワイヤーを通して一時的な補強が施されている。こんな惨状であるにもか関わらず、その集落には生活の気配があった。
     そんな建物のひとつ、最も大きな家屋の一室に、一人の男が佇んでいた。青く柔らかい髪を自然に下ろし、サングラスを外したジョニーである。彼の視線の先には、真っ白な寝台が置かれていた。
     ジョニーは、寝台の上の人物を見つめていた。そこには、かつて世界を救ったと言われる英雄、不動遊星が眠っている。遊星は固く目を閉じていて、身動きひとつ取らなかった。
     黙ったまま寝台に近づくと、ジョニーは遊星の腕に触れた。顔を覗き込み、呼吸を確認して脈を測る。異常がないことを確かめると、その顔をじっと見つめた。
     目の前に眠っている人物は、どう見ても不動遊星だ。しかし、彼が本物の遊星でないことを、ジョニーは知っている。本物の不動遊星は、二百年も前に亡くなっているのだ。過去からタイムスリップでもしない限り、この世に蘇ることはなかった。
     ジョニーが遊星の真実を知ったのは、数年前のことだった。機皇帝との戦いが一段落し、人々がレジスタンスを結成した時に、彼自身から打ち明けられたのである。別室に彼を呼び出した遊星は、真剣な表情でこう言った。
    「お前に、伝えておかなくてはならないことがある」
     その言葉を聞いて、ジョニーは身構えてしまった。彼は、遊星の右腕として直々にレジスタンス精鋭部隊の指揮を任されていたのだ。レジスタンスの運営に関わる重要事項を聞かされるのではないかと思ったのである。
     しかし、遊星の言葉は全く違うものだった。彼は大きく深呼吸をすると、真剣な眼差しでこう告げた。
    「俺は不動遊星の姿をしているが、不動遊星ではないんだ。今まで黙っていて、すまなかった」
     ジョニーは、目をぱちくりさせた。予想外の言葉に、即座に反応ができなかったのだ。頭の中で言葉を咀嚼すると、肩の力が抜けたように笑う。
    「なんだ、そんなことか」
     彼のあっけらかんとした態度を見て、今度は遊星が目を見開いた。困惑した様子の遊星に、ジョニーは優しく微笑みかける。
    「君が本物の不動遊星ではないことは、ずっと前から知ってたよ。いや、知ってたと言うよりは、そうじゃないかなと思ってた、の方が正しいかもしれないね」
     ジョニーが言うと、遊星はホッとした様子で笑みを浮かべた。ジョニーにとっては既知の事実だが、彼にとっては一世一代の告白だったのだろう。小さく息を付くと、安心したように言葉を発した。
    「そうか、気づいていたのか。……そうだな。お前は、不動遊星のファンだったから」
     噛み締めるようにゆっくりと、遊星は言葉を紡ぐ。自分が不動遊星のファンであったことは、遊星には話したことがない。それでも、何故か彼は知っていた。きっと、出会う前から知っていたのだろう。
    「良かったら、話してくれないかい? 君が、不動遊星という英雄になったきっかけを」
     真剣な表情でジョニーは言う。遊星は、覚悟を決めてこの告白に踏み切ったのだ。その決意を受け止めることが、彼の右腕としての使命だと思った。
    「お前にだけは、真実を話そう。これは、俺がシティで科学者をしていたときのことだ」
     そう言って遊星が語った物語は、壮絶なものだった。彼は、一番にモーメントの暴走を察知し、対抗策を考え始めた。彼が辿り着いた結論は、人々を正しい方法に導くことだった。そのために、彼は自らの肉体を改造し、かつてこの世界に生きていた英雄となったのだ。
     彼の話を聞いて、ジョニーは言葉を失った。遊星が背負った覚悟の重さは、彼には想像もつかないほど大きなものだったのだ。自らの肉体を作り替えるなど、相当の決意が無ければできることではない。
    「君は、そこまでの想いを背負っていたんだね。自らを作り替えてまで、この世界を救おうとしていたなんて」
     ジョニーが呟くと、遊星は申し訳なさそうな顔をした。
    「騙すような真似をして、すまなかった」
    「騙されたなんて思ってないよ。かつての不動遊星とは別人だとしても、遊星は遊星なんだから」
     それは、ジョニーの本心だった。経緯はどうであれ、目の前に立っている青年は、まごうことなき遊星だ。ジョニーの相棒であり、レジスタンスの希望である英雄だったのだ。
     遊星は、安心したように笑った。それ以来、ジョニーが遊星から過去の話を聞いたことは一度もなかった。彼にとって、それは無闇に話すことではなかったのだろう。ジョニーも、あえて聞くようなことはしなかった。
     思い出に浸っていると、不意に、寝台の上が蠢いた。重たげな呻き声と共に、遊星が身動ぎをする。衣擦れの音を纏いながら、ぱちりと目を開いた。
    「ここは……?」
     遊星はゆっくりと身体を起こした。感覚が掴めないのか、布団から出した手を握ったり開いたりする。ジョニーの視線に気づくと、真っ直ぐに視線を向けた。
    「目が覚めたかい?」
     尋ねると、彼は、弾かれたように布団を跳ね除けた。立ち上がろうと姿勢を変えて、ぐらりと体勢を崩す。
    「何があった!? 仲間は無事か!?」
     慌てて支えに向かったジョニーにすがり付きながら、遊星は声を荒らげる。彼をなんとか押さえ込みながら、ジョニーは言葉を返した。
    「落ち着いて。僕たちは何もないよ。ただ、遊星が倒れただけなんだ」
     彼の言葉を聞くと、遊星はようやく手を離した。相手が落ち着いたことを確認すると、これまでの経緯を語り始める。
     数日前、遊星とジョニーを始めとするレジスタンスの精鋭部隊は、周囲の探索に出掛けていた。機皇帝の動向を探りつつ、次の移住先を決めるための調査だった。現在の拠点は損害がひどく、長居は難しいと思ったのだ。
     その探索の最中に、突如遊星が倒れたのだ。ジョニーが受け止めたことにより、怪我は負わずに済んだが、調査は中断を余儀なくされた。
     ジョニーには、彼が倒れた理由が分かっていた。仲間たちが寝静まった深夜に、遊星は一人で何かを進めていたのだ。徹夜を続けて倒れることも、ジョニーに拠点へと運び込まれることも、彼にとっては日常茶飯事だった。
    「遊星は、無茶しすぎなんだよ。もっと、僕たちを頼ってほしい」
     そう言うと、遊星は申し訳なさそうな顔をした。反省はしているのだろうが、彼には何度言っても伝わらなかった。。
    「すまない」
    「分かってるよ。遊星が、世界を救うために真剣だってことは。でも、僕たちだって、遊星の力になりたいんだ」
     ジョニーは、ベッドの横にしゃがみこんだ。目線の高さが、遊星と同じくらいになる。その動作に答えるように、遊星がジョニーの瞳を見つめた。そのまま、二人はしばらくの間見つめ合う。
     ジョニーが口を開こうとしたとき、外からノックの音が聞こえた。見つめ合っていた二人が、慌てた様子で視線を反らす。ジョニーが立ち上がると、遊星へと声をかけた。
    「出てくるよ」
     ジョニーが玄関に向かうと、再びノックの音が響いた。扉を開くと、困った顔をした女性が遠慮がちに会釈をした。後ろには、十人ほどの子供の姿が見える。
    「すみません。こんな時にお訪ねしてしまって。子供たちが、どうしてもお見舞いしたいって聞かなくて」
     申し訳なさそうな態度で、女性は口を開いた。後ろにいた子供たちが、ジョニーの元へと駆け寄る。ジョニーが視線を向けると、彼らは口々に話し始めた。
    「ジョニーだ」
    「ねえ、遊星は大丈夫なの?」
    「遊星に会わせて!」
     女性が、慌てて子供たちの前に出る。ジョニーの前から引き離すと、深く頭を下げた。
    「すみません。……こら、ジョニーさんに迷惑をかけないの」
     ジョニーは、身を屈めて子供たちに視線を合わせた。一人一人の顔を見つめると、穏やかな笑顔で言う。
    「遊星は、さっき目が覚めたところだよ。良かったら、会っていかない?」
    「いいの!?」
    「遊星に会いたい!」
     子供たちが嬉しそうな声を上げた。女性が驚いたように声を上げる。
    「良いんですか?」
    「是非、会っていってください。きっと、遊星も喜びます」
     子供たちが室内へと駆け上がった。ジョニーと女性も、そのあとに続いた。
     駆け寄ってきた子供たちを見て、遊星は一瞬だけ驚いた顔をした。すぐに笑顔を浮かべて、子供たちを受け入れる。
    「遊星!」
    「大丈夫!?」
    「お見舞いに来たよ!」
     次々と話しかける子供たちの話を、遊星は微笑みを浮かべて聞いていた。ところどころで相槌をうちながら、熱心に彼らの話を聞く。
    「見て、この果物は、僕たちがとってきたんだよ!」
    「私たちはお菓子を作ったの。受け取って」
     子供たちは嬉しそうに品物を差し出した。遊星の座る寝台は、あっという間に見舞いの品で溢れ返る。その様子を見て、遊星は嬉しそうに微笑んだ。
    「ありがとう」
     その様子を、ジョニーはにこにこと笑いながら眺めていた。彼自身も、帰還早々子供たちから同じような歓迎を受けていたのだ。
    「良かったんですか? 英雄様はお疲れなのでしょう? お休みになられた方がよろしいのではないでしょうか」
     隣から、女性が困ったように声をかける。笑顔を浮かべて、ジョニーは女性の問いに答えた。
    「良いんです。遊星は、子供たちの笑顔が何よりも好きですから。きっと良い休息になりますよ」
     歴史の中の不動遊星は、何よりも子供を大切にしていた。彼が遊星であるのなら、子供からの声援は何よりも力になるはずだった。
    「そうですか。それなら、良いのですが……」
     そう答えると、女性は寝台の遊星へと視線を向けた。そこでは、遊星が子供たちの話を聞いている。微笑ましい光景だが、話の内容はデュエルに関することばかりだった。
     レジスタンスの人々は、遊星の正体を知らない。遊星は、一部の精鋭部隊にしかその出自を語らなかった。広く知れ渡ることで、レジスタンスの統率が乱れることを危惧したのだ。
     レジスタンスの人々は、遊星のことをどう捉えているのだろう。生まれ変わりだと思っているのか、そっくりさんだと思っているのか。中には、神からの遣いだと信じている者もいるのだろう。このような状況なのだ。何が起きてもおかしくなかった。
     ただ、遊星が何者だったとしても、ひとつだけ確かなことがあるのだ。それは、彼がレジスタンスにおける英雄で、彼らの希望の星であることだ。彼が偽りの遊星であるとしても、そのことだけは変わらない。
     ジョニーは、遊星と子供たちに視線を向けた。その姿は、彼がかつて資料で見た遊星と何も変わらない。子供たちを愛し、シティの平和を愛した青年が、彼らの前にはいた。
     遊星は、レジスタンスの希望なのだ。彼の意志を守るためにも、自分だけは一番近くにいようと、ジョニーは心に誓うのだった。
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