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    Lococo

    @Lococo51774193

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    💎🏅のお話 一話
    お好きな方だけどうぞ…
    💎サンは大学生でカメラマンなりたてです。
    🏅キュンは高校生です。

    右手とネイル一話 ネイルを塗る話(天元×天満①)

    注意書き
    ・宇髄天元は現役大学三年生でプロカメラマンなりたての設定です
    ・天満は高校二年生の設定です
    ・天元(本家、芸術一家)と天満(分家、スポーツ一家)は従兄弟の設定です
    ・天満の言う先輩とは、今後も出てくるモブの橋木ダイキ選手・大学一年生です(橋本選手から名前もらってます)
    ・天満の言う女子体操選手は、宮田選手をイメージしてます
    ・カメラ用語がちょいちょい出てきますが、ただよ自己満です。物語に重要ではありません


    *****


    玄関のインターホンが鳴る。
    モニターには、自分によく似た容姿を持つジャージ姿の少年が映っていた。そわそわと、どこか落ち着きがなく、そっぽを向いている。
    天元が何も言わずにドアを開けると、ちわーっす、と消えそうな声で若者特有の短い挨拶をしながら、するりと天元の脇をすり抜けた。
    幼い頃から体操に明け暮れている従兄弟の天満は、類い稀な身体能力の持ち主で、その世界では割と有名だ。
    天満はそそくさとランニングシューズを脱いだ。最近、契約したとかいうアシックスのニューモデル、派手なオレンジの蛍光色。
    そのまま、ずかずかと部屋に上がり込んで、真っ直ぐにキッチンに向かうと、天満は迷う事なく冷蔵庫を開けた。
    「ねぇ、ビールとか酒しかないんだけど」
    と、勝手気ままな台詞を吐く。
    玄関の鍵をかけて部屋に戻ってきた天元は、
    「水があんだろ?」
    と、さらりと受け流した。
    ちぇっ、と舌打ちをして、天満はリビングのソファに体を放り投げた。背負っていたリュックはソファの傍らにとすんと落とす。脱ぎ捨てたジャージの上着が、ソファからずり落ちて床にぽとりと落ちた。
    リビングテーブルに目をやると、天元が愛用するカメラのボディが置いてあった。
    キャノンEOS1DMark2 が重厚な存在感を放つ。その横には無造作に、ブロアーやクリーニングクロスが置かれている。
    大事な商売道具の手入れの最中にやってきた生意気な訪問者の為に、天元はキッチンに立つとコーヒー豆を挽き始めた。コーヒーミルのハンドルを手際よくごろごろと回す。
    「今から豆、挽くの?」
    天満が問えば、
    「拘りだよ、どうせなら美味いもん飲みたいでしょ」
    天元が返す。
    ふぅん、と、天満は興味なさそうにしながらも、この美しい顔を持つ男に特別扱いをされているようで、少しだけ気分が良かった。
    ドリップケトルから湯気が立ち込め、挽きたてのコーヒー粉が入ったフィルターに湯が注がれる。
    のの字を書くようにケトルを回しながら、少し鼻歌交じりの天元に、チラと視線をやりながら、天満は携帯を手に取る。
    画面に表示されたのは、ネットニュースのスポーツ欄。
    『細部まで完璧を求めて ネイルに込める思い』
    と題した記事。天満の一つ年上の女子体操選手が、笑顔で右手の指先を見せた写真が掲載されていた。



    「何、見てんの?真剣な顔して」
    と、天元が天満の持つ携帯の画面を覗き込む。白いマグカップに注いだコーヒーの香ばしい香りと、彼の甘い香水の香りが、天満の鼻先をかすめる。
    天満は慌てて画面を隠した。
    「うるさいな」
    憎まれ口を叩きながらも、間近にある天元の横顔とその甘い香りに、天満はふわりとした感覚に捕らわれた。
    「ここにコーヒー溢されるのが一番困るから」
    とテーブルの上のカメラを差し、天元は腰を使って、ぐいぐいと天満の体をソファの隅へと押し出した。天満はしぶしぶと体をずらしながら、マグカップを受け取る。
    天元はソファのやや中央に腰掛けると、カメラのボディとブロアーを手に取った。キラキラと光るミラーを眺めながら、長い指でブロアーをシュッシュッ、と手際良く扱う。そんな何気ない仕草まで、嫌味な程に様になる。
    「で、今日は何しに来たの?」
    天元は視線はカメラに向けたまま、天満に尋ねた。
    天満はぐっと言葉を詰まらせながら、ちらりと天元の指先を見る。
    「ソレってさ…どうやるの?」
    天満が小声で呟くと、天元は不思議そうな顔をして、カメラのボディにカバーをかけ、ケースにしまった。
    「何、興味あんの?」
    ニヤリと笑う。
    天満が言うソレが、何であるかを天元はすぐに理解した。天満の携帯に写し出されたネット記事に『ネイル』の三文字が見えたからだ。
    天元はひらりと、右手を天満の前に差し出した。長く美しい指先に、ムラもなく丁寧に塗られたカラフルな爪が光る。
    「え…っと、興味っていうか…その…」
    と口籠りながらも、
    「…なんで天元は、ソレ、してるの?」
    逆に尋ねる。
    天元は少し間を置くと、ふは、と笑った。
    「キレイだし? 特に意味なんてないよ」
    と答えて、
    「…ま、強いて言うなら気持ちの問題?」
    と付け加えた。
    むう、と、どこか納得のいかない表情をする天満に、天元は更に続けた。
    「…そんなに気になるなら、してやろっか?」



    あれよあれよのうちに、ネイルの小瓶がテーブルに並べられ、天満は天元の膝の間にすっぽりと収まっていた。後ろからはがいじめにされて、身動きが取れない。天満の肩先に天元の顔が近付いて、髪と髪が触れ合う。それだけなのに、天満の胸の内をむずむずと妙な緊張感が支配する。
    「…なんでこの格好?」
    と天満が体を強張らせると、
    「自分のしか塗った事ないから、同じ方向じゃないと上手く塗れないんだよ」
    天元から、もっともらしい返事が返ってきた。
    「…はい、手、開いて?」
    と指図する天元の言うなりに、頬を紅く染めながらも大人しく従う。
    「…あんまり目立つ色はやめろよ」
    と、戸惑う天満に、
    「じゃ、トップコートだけにしとく?」
    と、天元は透明な小瓶を手に取った。
    「…これなら、色はないけど光沢が出来て、きらきらするよ」
    慣れた手つきで天満の右の親指の爪に、ハケを落とした。
    ひんやりとした初めての爪への感触に、一瞬びくっと天満の体が小さく跳ねたが、それよりも天元の大きな手のひらから伝わる温もりが、天満をますます高揚させた。心臓の音が聴こえるのではないかと、気が気ではない。
    何故、こんなに胸が高鳴るのかは、天満自身、多少は自覚している。けれど、その曖昧な理由をどこか否定したいと思う自分もいる。
    それを知ってか知らずか、天元はぴったりと天満と体を合わせて、肌の温もりを伝えてくる。
    天満の指先が、少しずつひとつずつ、滑らかな光沢を纏っていく。黙ってその行為を見つめる天満と、黙ってそれを続ける天元。
    暫しの間、静寂が訪れた。



    「…あのさ」
    静寂を破ったのは天満の方からだった。静けさに耐えられなくなったのか、ようやく重たい口を開く。
    天元は手を止める事もなく、んー?、と小さな声で答えた。
    「…なんでか、訊かないんだ?」
    と天満が言えば、
    「…訊いたら、答えるの?」
    と天元が返す。
    ぐっと口籠る天満に、天元が続けた。
    「ただの興味本位なら、クラスのオシャレ女子にでも頼めばいいのに、わざわざウチに来たんだし?お前にとって意味あるんでしょ?」
    まるで見透かすかのように、天元は天満の左の小指にネイルに塗りながら話す。
    この指が最後だ。
    天満はふぅ、と小さくため息をつくと、
    「…こないだの大会で銅メダル取った女子の選手。ネイルして試合出たんだよ。あいつ、先輩のようになりたくて、ネイルしたんだって…」
    ぽつぽつと話し始めた。
    ピクリと、天元がハケを持つ右手を止める。左手は天満の左の手のひらを支えたまま。
    ああ、と天元は無愛想に相槌を打つと、
    「…ネットニュースに載ってたね」
    と返した。
    「…読んだ?」
    と天満が尋ねると、天元は
    「…少しね」
    と短く答えた。
    天満はくるりと顔だけ天元の方を向くと、
    「…なんかムカつくんだよ、アイツが先輩みたいになりたいとか、思ってんの」
    とムキになってふん、と鼻息を荒くする。
    天満の言う先輩とは、前回のオリンピックで金メダルを取った、日本で今、一番有名な男子体操選手の事だ。幼い頃は天満と同じ体操クラブに通う仲。天満が彼の通う大学に行きたくて、推薦が駄目だった時の為に勉強も頑張っている事も、天元は知っている。
    「…ふうん。で、その女の子と同じ事して張り合おうって?」
    ピリとした冷たい空気を纏った声で、天元が天満の瞳を覗き込んだ。
    「……う、いや…」
    返答に困ったような天満に、
    「自分の方が、その女の子より先輩の事好きですってアピールしたい?」
    もっと意地悪な問いかけをする。
    「……え、違うし…。別にそういうんじゃ…」
    天満がふいっと視線を外した。もぞもそと居心地が悪そうに少しだけ体を揺らす。天元はそんな天満の両手を掴んで、そのままその指をお互いに組ませた。
    「…しばらく、こうして、動かないで? ネイルが乾くまで」
    と、天満の耳元で囁いた。



    がっちりと両の手のひらを組まされた天満は、動かないでと言われるままに、微動だにしなかった。
    「ちゃんと言う事聞くんだ?…ネイル綺麗だねって先輩に褒めてもらいたい?」
    冷ややかな眼差しで、天元が言い放つ。何故そんなに突っかかる言い方をするのか、天満には理解できない。
    「…ネイルっていうか…指の先までピンと伸びた演技で、先輩みたいなキレイなフォームにさ…」
    天満が言いかけたその時、するりと天元の右手が、天満の胸元を撫でた。
    「…!ちょ、おい? 何する…」
    驚いてその場所に目をやる。天元は白く伸びた右の人差し指を、するすると天満のTシャツの上で滑らせた。
    「…指の先まで、ね。…なら俺の指先も、見て?」
    天満の頬に、天元の吐息がかかる。
    「…俺もね、指先に魂込めるよ、シャッターボタンを押す時。グリップからボタンを探すの。こうやって」
    天元はそう言って、天満の右胸の敏感な場所を、くるくると円を描くように、指でなぞった。
    「…ふ、ぅ、」
    声にならない声が、天満の口から漏れる。
    「…シャッターボタンを撫でながら、タイミングを測る、その時間が好き。それから、ボタンをこうやって半押ししながら、被写体を追いかける」
    そう囁いて、天元はさらりさらりと動かしていた指に、少しだけ力を込めた。天満の胸の小さな膨らみに、天元の人差し指がきゅっと押し当てられる。
    「……んっ、」
    体がびくっと反応して、天満は思わず背中を丸めた。今まで一度も経験した事のない感覚に捉われ、頭の中が真っ白になる。
    「…ココを緩く押したまま、ベストのタイミングになるまで待つの。そのタイミングが来たら」
    天元は、ペロ、と舌を出して上唇を舐めた。それと同時に、右の人差し指にぐっと力を込める。
    「…シャッターを切る瞬間を、見逃さない」
    天満の耳元に天元の低い声が響いて、触れられた敏感な部分に、いい表しようのない刺激がピリピリと走った。
    「……はぁっ…、」
    天満の口から、思わず吐息が漏れた。天元の美しく長い右手が、誰も触れた事がない天満のしなやかな場所を弄る。
    天満の中で曖昧だった、ふわりとした淡い感情が、甘い刺激を受けて、はっきりと確信に変わった。
    この手で、触れて欲しいという欲求。
    「…ココ、気持ちい?」
    天元がふっと天満の耳に息をかける。ぶわっと天満の耳が真っ赤になった。
    「…わ、かんないけど、なんか変…、」
    天満は思わず素直に言葉を返したが、はっと我に帰ると、
    「…や、何すんの?」
    慌てて足をバタつかせて抵抗した。
    「…ネイル乾くまで、退屈でしょ?」
    と早口で呟くと、天元はふっと右の手を天満の体から離した。
    「もう乾いたと思うから、手解いていいよ」
    そういうと、急に立ち上がって天満に背を向けた。
    「…あ、ありがと…」
    自分の指先を眺めながら、気持ちを落ち着かせるように、天満は小さく礼を伝えたが、何故だか無性に何かが物足りなくて、チッと心の中で舌打ちをした。
    …ああ、気付きたくなかったような、でもハッキリしちゃったものはしょうがない。
    天満は気持ちを整理しようと、グルグルと頭をフル回転させたが、知ってしまった快感はもう無かった事にはできなかった。
    だがふと、思い出したように、
    「…てかさ、何? “退屈凌ぎ”で、こんな事すんの?」
    急に腹立たしさが込み上げてきた。嬉しさと恥ずかしさと、天元の気まぐれに対するイライラと、色々な気持ちがミキサーにかけられた気分、と言ったらいいのか。
    「…もう帰る!退屈なら大事なカメラ触ってろよ」
    天満は勢いよく立ち上がると、ジャージの上着を拾いあげた。
    リュックを背負いながら、チラリと天元に視線をやると、天元は天井を仰いでいる。
    「…あー、そうじゃなくて、」
    と、天元はばつが悪そうに顔をしかめた。
    いつも冷静で余裕綽々な天元が、横目で薄く天満を見つめると、珍しく髪をくしゃくしゃと掻きむしって、
    「…わりぃ、なんかお前かわいいんだもん」
    ふう、と溜め息をひとつ溢した。
    天元は表情を隠すように右手で顔を覆うと、
    「…先輩ばっかりじゃなくて、こっちもちゃんと見てよ?」
    と、指の隙間から涼しげな瞳を覗かせて、僅かに首を傾けた。
    「…は?いや、かわいいとか意味わかんねぇし!」
    天元と視線が絡み合った途端、天満は全身の血液が頭のてっぺんに上昇していくみたいに、かあっと顔が火照った。
    「そーゆーのは、女に言えよ、ヤリチン!」
    そう言い放った後、まるで捨て台詞を吐いて逃げるフラれた女みたいだな、と天満は思わず冷静に自分を分析してしまった。
    「帰る!もう来ないからな!」
    言いようのない羞恥心が湧き起こり、居た堪れなくなった天満は、バタバタと忙しなく走り去った。続けて玄関のドアの開く音と閉まる音が、続けて部屋に響く。
    「…え、うそ。ホントに帰っちゃった?」
    一人ぽつんと部屋に取り残された天元が、唖然として立ち尽くす。
    そんなつもりじゃなかったのに、と言おうとしたが、その言葉は飲み込んだ。
    右手の指に余韻と淋しさと微かな熱が残っている。天元はそっと右手を左の手のひらで包み込んだ。

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