夏休みの短編(仮)7✕11
年期の入った据え置き型のラジヲをぶらぶら揺らしながら、通いなれた学校までの道を黙々と歩いていく。
まだ低い位置にあるはずの太陽が時折住宅の間から瞳を刺激して、夜間に降った雨のせいか湿ったままの空気が温まりしっとりと肌にまとわりつく。
朝の6時を過ぎたところだというのに、庭木といい街路樹といい至る所からジーウジーウと蝉たちの元気な合唱が降り注いで鼓膜の表面に張り付くようだ。
ずっとこの土地に住んでいるのに、生まれついてこのかた頭の下地にある記憶のせいでどうにもこの〝夏〟だけは未だに違和感が拭えない。
額を触るとすでに汗で湿ってしまっていて、くっついてしまった前髪ごと首のタオルでかきあげていると、後ろから軽やかな足音と聞きなれた高い声が段々と近付いてきた。
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