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    で@Z977

    @deatz977

    グスマヴェちゃんだけをまとめておく倉庫。
    🦆🐺至上主義強火。独自解釈多。閲覧注意。
    (全面的に自分用なので配慮に欠けています)

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    ハロー・アゲイン
    ⚠ルスマヴェ。続きにちょっとグスマヴェがあるのでUPしとこーかと……

    ハロー・アゲイン「マーヴは寂しがり屋だから、俺がずっと隣にいるよ」

     もうすっかり馴染んでしまった砂漠の真ん中にある格納庫で、P-51マスタングの整備をしているところに後ろから思いがけない言葉が聞こえ、マーヴェリックは振り向いた。逆光で表情の読めないルースターの姿が白昼夢のように佇んでいる。
    「……ブラッド、起きたのか」
     おはよう、と手にしたままのレンチを軽くあげると、マーヴェリックは格納庫の入り口に背を向けて声をかけたルースターに近寄る。

     先のミッションからマーヴェリックとルースターのわだかまりは雪解けを始め、その距離は少しずつ以前のように近くなっていた。長期休暇が合えば互いの居住地を訪れることも珍しくなくなり、まさに昨夜からルースターはマーヴェリックの元へ身を寄せている。東海岸と西海岸という決して気軽に行き来できるものではない物理的距離が二人を阻んでいたが、それすらもこれまでの高い壁に比べれば大した問題ではなかった。
     特にルースターにしてみれば、自分本位にマーヴェリックを遠ざけ、傷つけてしまったことに少なからず後ろめたさを感じていた。もちろん願書を抜かれたこと自体は手放しで許せることではなかったが、当時のマーヴェリックや母、そして己の状況を顧みれば、そこにある理由は自ずと見えてくるような気がしていた。当時そのことに思い至らず喧嘩別れのまま疎遠になってしまった時間は、本来ならマーヴェリックが孤独に過ごす必要がなかったかもしれない時間で、その間、彼を独りにしてしまったという後悔が、ルースターの中にしこりのように残っている。

    「で、なんだって?」
     タオルで手を拭きながらマーヴェリックが尋ねた。朝の挨拶もなく開口一番に言われた言葉の意味をはかりかねている。
    「親父の夢を見たんだ」
    「グースの?」
     予想外の返答に、マーヴェリックはきょとんと効果音の付きそうな顔でルースターを見遣る。聞きたくてうずうずし始めた様子のマーヴェリックを視界に捉えながら、ルースターは頬を掻いた。伝えて良いのかわからないけれど、伝えたい思い出と夢の話だった。
    「そう。多分、俺が小さい頃の。確かに、そんな会話を親父としたなって思って」
     核心に触れないルースターに焦らされながら、マーヴェリックは先を促そうとして、けれども口をつぐむ。彼らの思い出の中に踏み込んで良いものか。聞きたいけれど、聞いても良いのだろうか。雄弁なマーヴェリックの瞳がルースターを窺う。
    「俺さ、小さい頃、マーヴが本当に俺の家族だと思ってたんだ。可笑しいだろ」
    「それは……僕としてはすごく、嬉しいけど」
     思わぬ告白に喜びが隠し切れず、ムズムズと動く口元を正そうとマーヴェリックは苦戦していた。
    「うん。で、ある日マーヴが本当の家族じゃないって知って。それで親父に聞いたんだ。『どうしてマーヴはいつもダディと一緒にいるの?』って。ほら、俺は家族だから一緒にいるんだと思ってたから」
     ぽつぽつと話すルースターの様子を、マーヴェリックは目を細めながら眺める。ルースターにはその表情が、きっとあの幸せな日々を思い出しているのだとわかった。マーヴェリックがグースを思い出している時、それは触れてはいけない神聖な祈りの時間のようだった。
    「それで、グースはなんて答えたんだ?」
     穏やかな声が今度はしっかりと続きを促した。
    「マーヴはすごい奴だけど寂しがり屋だから、俺がずっと隣にいるんだ、って」
     ひとつ呼吸をし、続ける。
    「……大切な奴に、寂しい思いはさせたくないだろ、って」
     零れんばかりに見開いたマーヴェリックの瞳に薄らと光るものが浮かぶ。目尻を濡らしながらも流れなかったそれは、マーヴェリックの瞳が持つ星を閉じ込めたような煌めきを、一層輝かせていた。
    「お前にまで、そんなこと言ってたんだな」
     懐かしそうに笑う顔が、切なくて、眩しい。
    「言われたことがあるんだ、グースに。『マーヴは寂しがり屋だから、俺がずっと隣にいてやらないとな』って」
     ずっと、と音もなくマーヴェリックの唇が繰り返したのを見て、ルースターは胸が締め付けられる思いだった。グースの「ずっと」が叶えられなくなってしまったことは、もう長いこと、それこそ「ずっと」マーヴェリックを苛んでいる。
    「……僕は、そんなに寂しそうに見えるのかな。アイスにも言われたことがあるよ。僕は一匹狼なのに寂しがり屋だって。別に、本当に独りで、平気なのに」
     力なく笑う姿が痛々しくて、気が付くとルースターはマーヴェリックを抱きしめていた。
    「独りが平気だなんて、言わないでくれよ」
     その途端、長い間胸につかえていたものが何だったのか、ルースターはやっとわかったような気がした。
    「親父がいなくなってから、俺はずっとマーヴのそばにいてやらなきゃって思ってた。『寂しがり屋のマーヴ』を独りにしちゃ駄目なんだって。俺も親父みたいにマーヴと一緒に空を飛んで、ずっと隣にいるんだって」
     それが、他でもないマーヴェリックの手によって果たせなくなったと知った時、ルースターはよすがを失くした子供のように絶望を感じた。マーヴェリックから、拒絶というアンサーを受け取ったのだ。
     絶望は怒りに変わり、いつしかルースターの心は怨嗟の叫びで醜く塗り潰されていった。
     それでも空を諦められなかったのは、父への憧憬と、やはりその相棒への名状し難い感情にほかならなかった。

     いつの日か、ルースターはトレーラーハウスに飾られた沢山の写真がマーヴェリックの孤独を慰めようとしていることに気が付いてしまった。それらの中にある己の写真には見覚えのあるものもあれば、そうでないものもある。それらがいつ撮られたもので、どうしてここにあるのか。そんなことは、もはやルースターにはどうでもよかった。
     ただ、マーヴェリックはどんな思いでこれらの写真を見ていたのだろうかとそんなことばかり気になった。寂しがり屋の彼が、一体どんな思いで――。それは紛れもなく拒絶とは正反対の感情に違いなかった。

    「ずっと、寂しい思いをさせて、ごめん」
     知らず、抱きしめる腕に力がこもる。離れていた時間を手繰り寄せるように掻き抱いた。
    「マーヴは寂しがり屋だから、俺がずっと隣にいるよ」
     今度こそ。果たされなかったその約束を、ルースターは叶えてやりたかった。物理的に隣にいることは叶わなくても、マーヴェリックが孤独を感じないように寄り添っていたい。
     じんわりと胸元が濡れるのを感じながらそれでも抱きしめる腕の力を緩めずにいれば、背中に回されたマーヴェリックの腕が、おずおずとルースターの服を掴んできた。
    「……謝るのは僕の方だ、ブラッドリー。僕が、もっとお前の気持ちを考えてやるべきだったし、ちゃんと話し合うべきだった。……子供のお前が、責任を感じることなんてないんだ」
     くぐもった声が鼓膜を響かせる。
    「違うよ、マーヴ。違うんだ」
     届かない思いがもどかしい。ルースターは、マーヴェリックとの関係に未だに一線が引かれているのを感じていた。いつまで経ってもマーヴェリックは父親代わりの保護者気分で、ルースターを子供のように可愛がろうとする。縮まった距離にルースターが求めているものは、それではないのに。
    「俺がマーヴの隣にいたいのは、責任とかじゃない。マーヴに、寂しい思いも、悲しい思いもさせたくないんだ。それは責任がどうとかじゃなくて、ただ……」
     絞りだされた声は、悲痛な祈りのようだ。
    「ただ、マーヴのことが好きだから、大切だから、マーヴと一緒にいたい。俺も、マーヴがそばにいないのは寂しいよ」
     腕の中で震えるマーヴェリックが、嗚咽をこらえて乱れる呼吸を整えながら応える。
    「お前に、そうやって言われるのは、なんだかくすぐったいな」
     でも嬉しいよ、と震える声で告げる。
     腕を緩め顔を上げさせようとするルースターに、マーヴェリックはいやいやをするように押し付けた首を横に振って応えた。きっとぐちゃぐちゃな感情で、ひどい顔になっている。しがみつくようにハグを返す。
     ルースターの優しい溜息がひとつ、マーヴェリックのつむじに降った。
    「……子供の頃、マーヴを本当の家族だと思ってたって話したろ」
     マーヴェリックのハグをそのままに、あやすように背中を撫でながら続ける。
    「俺は今でも、マーヴと家族になりたいと思ってるよ」
     驚きで涙が引っ込むなんておかしな話だが、マーヴェリックの耳に届いた言葉は、そうさせるのに充分だった。ルースターが、あの可愛いブラッドリー坊やが、今でも自分と家族になりたいと思っている。その事実はマーヴェリックの胸を歓喜で打ち震えさせた。
     思わず顔を上げた先でマーヴェリックが出会ったのは、しかし想像よりもずっと大人に成長したひとりの男だった。熱を孕んだ双眸にとらわれる。
    「だから、俺と結婚してよ、マーヴ」
     重なる唇を拒絶できない。やわやわと遊ぶように食まれる口づけが次第に熱を帯びる頃にはマーヴェリックもルースターの舌を追うことに夢中になっていた。
    「……っふ…ぁ…」
    「……ね、お願い、マーヴ」
     幼いブラッドリーの「お願い、マーヴ」と強請る声がマーヴェリックの脳内を掠めた。
     次いで、グースの声が重なる。お前は寂しがり屋だからーー

    「マーヴは寂しがり屋だから、俺がずっと隣にいるよ」

     夢か現か、遠くでうつろに響く鐘の音が、幸福の誓いなのか絶望の報せなのか、マーヴェリックにはわからなかった。
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