Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    で@Z977

    @deatz977

    グスマヴェちゃんだけをまとめておく倉庫。
    🦆🐺至上主義強火。独自解釈多。閲覧注意。
    (全面的に自分用なので配慮に欠けています)

    ☆quiet follow Send AirSkeb request
    POIPOI 57

    で@Z977

    ☆quiet follow

    かわいい狼ちゃんの話
    グスの独白。

    かわいい狼ちゃんの話 俺の、かわいいかわいい狼ちゃんの話をしよう。

     俺にだけ懐いている野生の狼ちゃんは、空を飛ぶ天賦の才に恵まれて、目を離してしまうと風に吹かれてどこかに行ってしまうんじゃないかってくらいに自由に空を翔る。それ以外の才能はどうしたんだってほどに空気は読めないし、実力に裏付けされた無謀さと不遜さは周囲との軋轢を生むし、虚勢を張りながらも孤立していく様子は名実ともにそいつを「一匹狼」にしていった。
     そんな男に敢えて絡んでくる奴なんて、例えば体格に物を言わせて鼻を明かしてやろうとする輩とか、整った容姿を持つ男を前に下心丸出しで不埒なことを考える輩とか、そういった類の、仕様もない奴らばかりだった。

     気難しい男の信頼を勝ち取れた理由が何なのか、明確な答えを俺は知らない。ただ、まるで愛され方を知らない子供のような男を、かわいそうだと思ったことは覚えている。庇護欲かもしれないし、ともすれば同情かもしれなかった。こんなこと、本人には口が裂けても言えないな。
     俺はただ、常に周囲を警戒しながらも安心できる寝床を探し続けている野生動物が、強い敵対心と猜疑心を安堵に変える瞬間を見たかったのかもしれない。人知れず悔し涙を浮かべるお前を抱き締めたいと、縋る先を知らない指先に安心を与えてやりたいと思ったきっかけが何だったのか、今となってはもはやわからない。今や雁字搦めに絡まった糸で、この男はいつだって俺の傍らにいる。俺の言動に一喜一憂して、どうしたって向こう見ずな行動をとる男を嗜めるのも、それを助長させるのも俺次第だった。この手綱を、俺はずっと握っていてやらないといけない。


     それが、ピート・“マーヴェリック”・ミッチェルという、俺の相棒なのだ。


     そんな警戒心の塊だった男が、少しずつ頑なな心を解いていき、今では俺に全幅の信頼を寄せている。
     名前を呼べば嬉しそうに笑うし、ちょっと揶揄えば頬を膨らませて、危険な行動を叱ればバツが悪そうにしながらも見捨てられやしないかと不安に潤む瞳が窺う。そのどれもが可愛くて、愛おしくて仕方がなかった。

     とびきり可愛いのは、俺に向ける「大好き」を詰め込んだ顔で、きっと抑えきれない気持ちが溢れてしまっているんだろう。
     ああ、俺も好きだよ。お前のことが、一等好きだ。そう告げたらお前はどんな顔をするんだろう。今だって幸せそうに此方を眺めているというのに、これ以上に幸せそうな顔を見せてくれるのか。
     俺を視界に捉える度に、にこにこしているお前に気付いているよ。目が合えばふにゃりと蕩ける目尻とか、嬉しさにゆるむ頬とか、喜びの隠しきれないむずむずした口元とか。お前が俺に向ける表情の全てが可愛い。

     キャロルやブラッドリーといる時のお前が幸せそうにしているのも俺にとっては救いで、だけどお前がそんな奴だから、たまらなくなる。俺にとってかけがえのない家族を、お前が同じように愛してくれているのが嬉しくて、それから少しだけ、申し訳なさがあるんだ。お前が嘘偽りなく俺の家族を愛してくれているから、俺はそれに甘えてしまっている。
     お前が、俺の幸せを壊したくないと思っていることは知ってるよ。俺との関係を壊したくなくて恐れているのも知ってる。俺は、お前が抱える不安も恐怖もいじらしい愛も全部知っておきながら、お前が望むように「何も知らないグース」のふりをしている。お前が寂しそうに笑う瞬間さえ、俺はお前の笑顔に騙されようとしている。まるで、俺は何一つ悪くないかのように。


     なぁ、好きだよ。お前のことを、愛してる。
     そう伝えられたら、俺たちの関係はどうなるんだろう。お前は、俺を否定するのかな。俺の気持ちを拒絶するのかな。お前のことを好きなニック・“グース”・ブラッドショーは、お前に存在を許してもらえるのかな。

     お前が言わないから、俺も言わない。強がりなんかじゃなくて、俺は本当にそれがお前のためだと思っていて、それは結局のところ俺のためだった。
     何一つ捨てられやしないくせに、俺は強欲だから、お前を手放してやることすらできない。お前の優しさに甘えて、お前の良心を試して、傲慢な愛を腹の底に沈めてしまっている。お前の目が、声が、全身が俺を好きだと伝えてくる度に、お前自身を縛るものが増えていくことも知っているのに、何等応えてやることもしないで、ずっと覚めない夢を見せ続けている。

    「ハニー、好きだよ、愛してる」

     冗談めかした愛の言葉を何度お前に聞かせただろう。その度に嬉しそうな、悲しそうなお前を見ているのに、本当に伝えたい言葉だって何も変わりやしないのに、どうしてもお前に届けることが出来ない。感情の欠片だって運んでくれない。運ばせてやらない。

     これ以上持てないほどに幸福でいっぱいいっぱいな両の手に、更にお前まで自分のものにした気でいて、己の貪欲さに辟易する。
     そうでなければ俺の全部を捨てたらもしかしてお前が手に入るんじゃないか、なんて思ったところで、そんなことはあるはずがなかった。誰よりも、お前がそんなことを許さない。俺だって、そんなことを一瞬でも考える自分をぶん殴りたかった。
     全部捨てちまえよ、って。俺には、お前より、大切な、もの、なん、て、


     どうしたって、お前が愛してくれるものを捨てられるものか。
     一番愛おしいお前が愛している俺の家族を、だけど俺は確かにお前よりも愛している。そしてそれ以上にお前が大切で、それよりも、もっと、キャロルやブラッドリーを大事に思ってるんだ、って。
     優劣なんて、つけられるわけがなかった。お前のことを何よりも愛している俺を否定しないでくれ。どうか、俺を、許してくれ。


     今日も、お前は抑えきれない「大好き」を俺に向けてくるだろ。俺だってお前を抱きしめてやりたいのに、余すところなく愛してやりたいのに、言葉一つ碌に伝えることもできなくて、だけどそれが俺たちの「正しい」関係を辛うじて保っている。

     孤独なお前を救うために伸ばした手で握る手綱が、いつかこの手から離れていくなんて考えたくなくて、そんな日は永遠に来なければいいとさえ思う。お前の幸せを願うほどに、その隣にいるのは俺でありたかった。


     もしもそれが叶わない日が来るのなら、その時は、お前の翼を自由に羽ばたかせてやってくれ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited