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    で@Z977

    @deatz977

    グスマヴェちゃんだけをまとめておく倉庫。
    🦆🐺至上主義強火。独自解釈多。閲覧注意。
    (全面的に自分用なので配慮に欠けています)

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    で@Z977

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    やさしいゆめのつづきにおはよう
    ⚠メインはデキてないグスマヴェですが、後半ちょろっとデキてるルスマヴェがあります。

    やさしいゆめのつづきにおはよう 真白な世界は、見回しても此処がどこなのか判然としなかった。暑くも寒くもない、快適でも不快でもない、ただ漠然と広がる空虚な世界。風は凪いでいた。

    「グース!」
     きょろきょろと彷徨えば、前方に見覚えのある広い背中があった。淡いブラウンが光に透ける背の高い後ろ姿に、奇妙な懐かしさを覚えた。いつも傍らにある存在なのに、なぜだかもうずっと長い間探していたような気がする。
    「グース?」
     もう一度声をかける。愛しいその顔を見るだけで安心できるはずだったのに、男は一向に振り向いてくれない。
     僕の声は、届いていないのかもしれない。


    「……グース、好きだ」
     ひりついた喉から絞り出した声は、思いの外掠れていた。道理で彼の耳に届かなかった想いを、吐き出すだけして満足する。その背中は、いつだってこの想いを受け取ってくれない。受け取ってもらおうとしたこともなかった。届いてしまっては困るのだ。彼も、僕も。
    「急にどうしたんだ、マーヴ」
     目を丸くして振り返ったのは、確かに僕が焦がれている男だった。
     ――どうして、こんな時だけ。
     一歩、また一歩。愛しい男が眼前に近付いてくる。
    「グー、ス、」
     いつも目にしているはずの姿に、胸が締め付けられる。硬く重い何かがつかえたように苦しい。呼吸がままならなくて、肺も、心臓も、ぜんぶが痛い。
     優しく腕を掴む大きな手のひらの感触に鼓動が高鳴る。視線を逸らしたいけれど、一秒でも長くその顔をこの目に焼き付けていたい思いが勝った。瞬きすら惜しかった。涙で視界が歪むことすら煩わしかった。
    「マーヴ、もう一回言って」
     拒否するつもりで首を横に振ると、涙が飛び散って少しだけクリアになった視界に、グースの穏やかな笑みが映る。よく知った優しい笑顔なのに、眉が下がった表情が心なしか普段よりも物悲しく見えた。そんな顔をさせたいわけではなかった。もっとたくさん、幸せなグースの顔を記憶に残したいのに。

    「マーヴ」
     頬を撫でる手があたたかい。あたたかくて、やわらかかった。どうしてこんなにもぬくもりに満ちているんだろうと思うと、涙が溢れて止まらなかった。次々と流れる涙を拭うぬくもりを覚えていたかった。
     僕の記憶にあるグースの手のひらは、このあたたかさだったろうか。冷えていく温度と……。

    「グース、……好きだ」
     長い間秘めていたはずの思いが、口を衝いて出る。二度と伝えられないかもしれないと思うと、今、伝えてしまいたかった。伝えたと言えるのかはわからなかった。これが幸せな夢にすぎないことは、もう気が付いてしまっていた。
    「言って、おきたくて」
     明日も変わらず隣で笑っていられることを疑いもしない日常が、ふいに、終わりを告げる。その後悔と絶望を知っていたはずなのに、いつしかその悲嘆を幸福が覆い始めていた。忘れてはいけなかったのに。伝えたい言葉は、明日じゃ遅すぎるんだってことを。
    「お前のことが、好きだって」
     いつ伝えられなくなるかわからない焦りが言葉を紡がせる。
    「グース、おれは、お前のことが、」
     すきだ。だいすきだ。大好きで、胸がいっぱいになって、上手く言葉にならない。くるしい。伝えたい想いは沢山あるはずなのに、何から言えばいいのかわからない。

     グースがRIOで心強かったよ。いつだったかの諍いでお前が庇ってくれようとして、結局一緒に上官から怒られたこともあったよな。どんなに無茶をしても、お前だけは僕を見捨てなかった。お前は見捨てないんだ、って信頼してたし、きっと僕は我儘になって、どんどんお前に甘えてた。
     ああ、それとも、初めてバディを組んだ時のつっけんどんな態度を今更ながら詫びるべきなのかもしれない。「お前と飛ぶのは楽しい」って僕の頭をくしゃくしゃにした後にお前が謝ったのは、確かに僕が「やめろよ」ってかぶりを振ったからだった。僕と一緒に空から戻った奴が、あんなにもきらきらした笑顔を向けてくることなんてなかったから、少しだけ戸惑いがあったんだ。だけどその時から、グースの大きな手のひらに頭を撫でられるのが好きだった。
     それに何よりも、キャロルやブラッドリーと一緒に、僕も君の家族のように接してくれたことが、本当に嬉しかった。
     どれから伝えたらいいのか選べなかった。グースに出会ってから今まで、ぜんぶのことが大切で、ありがたくて、嬉しくて、大好きだった。

     ほら、また。纏まらない想いに涙を零していればお前がこうやって抱きしめてくれるから、へたくそな言葉にしなくても大丈夫なんじゃないかって、そのぬくもりに甘えようとしてしまう。
    「グース、好き、だ。ずっと、ずっと、お前だけが、」
     だけど、明日伝えられなくなるのだと知っていたら、きっと伝えていた。この想いを受け入れてほしいとか、グースの返事が欲しいとかじゃなくて、僕が、どんなにお前を大好きなのかって、お前に会えてどんなに幸せなのかって、それだけでも伝えたかった。
     ずっと、後悔していた。伝えたくて、伝えられなくて、伝えないことを選んでいたけれど、伝えることができなくなる、なんて、思ってもみなかったから。

    「お前の大好きは、ちゃんと届いてる。ずっと、ちゃんと、届いてたよ」
     背中をぽんぽんと撫でる手のひらは、やはりあたたかい。このやさしいぬくもりから目覚めたくなどなかった。
    「なぁ、マーヴ」
     緊張を追いやるように、ほぅ、と一息ついたグースの体から幾ばくかの力が抜ける。
    「俺の大好きは、お前に届いてたか?」
    「……どういう、」
     意味だ? と続けようとして、細められたグースの瞳に絡めとられる。そこには全てを包み込む優しさがあった。もうずっと長いこと、この瞳に許されてきた気がする。
    「お前のことが大切だ、って。……俺も、お前のことが好きだって言ってなかっただろ」

     その言葉は不思議な響きを伴っていた。グースには等閑にされたことも、蔑ろにされたこともなかった。それはつまるところグースに大切にされていたのであって、そんなこと、言葉にする必要もなかった。そうだった。僕は、グースに、ちゃんと愛されていた。だからあんなにも安心して、ずっと隣にいられたんじゃないのか。
     胸にストンと落ちる。
    「そんなこと、ずっと、知ってた……みたいだ」
    「あぁ、そうなんだ?」
     クスリと控えめにグースが笑う。
     大好きだという想いを伝えるとか伝えないとかって悩んでいて、それはもちろん僕が抱いていたあの邪な浅ましい劣情が邪魔をしていたからなんだけど。こんなにも大切に思ってもらえて、愛してもらえて、これ以上をどうして望んでしまっていたんだろう。
     そこに情欲なんてなくてもよかったはずなのに。
    「じゃあ、そんな顔するなよ。俺がその顔に弱いの知ってるくせに」
    「別にいつもと同じ顔だろ」
    「あー……それなら、俺はいつもお前の顔に弱いってことだな」
    「……嘘ばっかり」
    「本当だって」
     この穏やかな時間を手放したくなかった。いつまでも、グースと二人で過ごす箱庭の中にいたい。
    「おれ、どんな顔してた?」
    「ちゅーしたくなるような可愛い顔してた」
     なんだそれ、と小さく零して笑う。いつものように笑えている気がした。馬鹿みたいにくだらないことで笑っていたあの頃みたいに。
    「でも、キスしてくれないんだろ」
     なんとなくわかっていた。だって、これは幸せな夢だから。幸せな夢なのに、思い通りにならない。キスのひとつやふたつしてくれてもいいのに、きっと僕が記憶しているグースが邪魔をする。僕たちの間に、そうして愛を交わしたことなどなかった。

     困ったように笑うグースを知っている。
     あぁ、これが最後かもしれないから、もっと幸せそうに笑ってくれよ。
    「お前がキスを強請る相手は、俺じゃないだろ」
    「……グースがいい。本当は、グースがよかったんだ」
     どんなに綺麗事を並べたって、どうしてもお前を求めてしまう。
    「僕は、まだ、君を諦められない」

     こんなにも好きになって、ごめん。



    ―――



     鼻腔をくすぐる深い薫りに意識がゆっくりと浮上する。「マーヴ、起きた?」の声を頼りに振り向くと、マグを片手にブラッドリーが顔を覗かせていた。
    「珍しいな、あんたが全然起きないなんて」
     そのまま姿を消したと思えば、もうひとつ増やしてきたマグを差し出される。
    「昨日そんなに無理させた? ごめん、久しぶりで……」
     何か食べる? シャワー手伝う? と甲斐甲斐しく世話を焼く自分より一回り以上年下の恋人にマーヴェリックは頬を緩ませた。
     いつの間にか始まった、親友の息子との誰にも言えない関係が、ずるずると続いている。初めこそブラッドリーの押しに絆された体を装っていたが、その実、己が彼に甘えてしまっていることには疾うに気づいていた。ふとした瞬間に、いつこの関係を解消してやればいいのか、と思う。自分はこの関係を、手放すことが出来るのか、と。
    「ブラッドリー」
    「ん?」
    「キスして、くれないか」
    「は?」
     突拍子もないことを言った自覚はあるが、一応恋人とでも名状するような関係なら不自然ではないだろう。とは言え年甲斐のない言葉だったかもしれない。反応の鈍いブラッドリーに気まずくなる。すまない、と謝ろうとした言葉は、寸でのところでブラッドリーに制止された。
    「……あー、いや、謝らないで。えっと、それは、親父の夢を見たから? だったら、ちょっと、複雑なんだけど」
    「何も言ってないだろう」
    「顔に書いてあった」
     こういう察しのいいところはグースに似てるな、と思う。似ているところを見つける度に、全く似ていないところも見つけるように苦心する。
     成長するにつれてグースの面影を受け継いでいったブラッドリーを微笑ましく見守っていた。しかし長い時間を隔てて再会した姿は思いの外にグースと瓜二つで、マーヴェリックの心をかき乱した。何をするにもブラッドリーが、そしてブラッドリーを通してグースが脳裏に浮かぶ。彼を失いたくなかった。今もこうして、共にいられる時間に縋っている。
    「……グースに、キスしてほしい、って」
    「えっ?」
    「いや、だから、夢で、その、」
    「ああ、そういう。……わかった。してあげようか?」
    「うーん……」
    「なに?」
    「グースは、してくれなかったから」
    「じゃあ、俺がしてあげる」
     器用に片方の口角をニマリと上げて覆い被さってくる。こうやって僕にキスをしてくれるところは、全然グースに似ていない。
     もう何度交わしたかわからないブラッドリーとのキスは、すっかり彼の癖を覚えてしまっていた。下唇の食み方も、鼻の擦り付け方も、舌のなぞり方も、触れる口髭の感触も。それらがグースと似ているのかなんて、僕は知らないけれど。
    「……なんで泣くんだよ」
    「…っ……すまな、い、」
     酷いことを、してしまっている。それなのに、被害者ぶって涙を流すことまでして、本当に、最低だった。
     グースはしてくれなかったんだ、でも、僕は、グースがいいって、強請っていたのに。
    「……僕は、狡い男だ」
    「今更だろ。そんなこと、ずっと前から知ってる」
     ブラッドリーにグースの面影を見つけてしまいたくなんてないのに、それは無理な話だった。ふとしたしぐさや言葉にさえ、グースの存在を見つけてしまう。それに喜びが込み上げることもあった。そうした時にはブラッドリーの名前を呼んで、その存在を確かめてしまう。目の前にいるのはグースではないのだと、勘違いするなと言い聞かせた。

    「あんたが狡いから、俺はずっと、あんたから離れられない」
     再び唇を奪われる。やはりよく知ったブラッドリーのキスだった。
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