ひとりじめ願望 拗ねた瞳と視線が絡んで、声を掛けようと手を挙げ掛けたところで目を逸らされた。壁に凭れて俯いている姿は小さな子供みたいだ。こっちに来て一緒に話をすればいいのに。そう思いつつ周りに適当な声を掛けてその場を離れる。我ながら過保護だと思った。
「マーヴ、どうした?」
「……どうしたって、何が?」
つまらなさそうに膨らませた頬が緩みそうな口元を辛うじて押しとどめている。寂しがり屋のくせに一匹狼で、他者との間に壁を作るこの男は、素直に甘えることも苦手らしい。
「こっち見てただろ。お前も来れば良かったのに」
無神経だとわかっていながら聞いてしまう。 マーヴェリックが輪の中に入りたかったわけではないことなど知っているのに。
「別に見てないし。おれはここにいるから、いいよ。行ってこいよ」
「えー……、お前が来ないなら俺も行かない」
「なんでだよ」
意味わかんねぇ、と零しながら表情が柔らかくなる。目を細めて持ち上がる頬が愛しい。
―――
グースのことを独り占めしようだなんて、随分と贅沢なことを考えてしまっている。最近は特にそうだった。
グースの周りはいつだって人で溢れていた。そこかしこで声を掛けられて、二言三言交わして次の人へ。あの底抜けに明るい男を誰が嫌いになれるんだろう。そんな彼は、きっと自分とは相容れない存在だったかもしれなくて、だから、もしかしたら嫌いになれた可能性があったかもしれないのに、屈託のない笑顔を向けられた時から、そんなことは無理なのだと悟ってしまった。
「俺だって、お前のこと独り占めしたいって思ってるけど」
「は?」
「いや、だから、お前のこと……」
「違う、そうじゃなくて。 何だよ急に。話が見えない」
声には出していないし、そんなことをグースに言うつもりはなかった。交友関係の広い彼に嫉妬しているだなんて。違う。彼の周りにいることを許されている人に嫉妬している、ということだ。子供じみた感情だとわかっていた。 ひどい独占欲だ。
「寂しかったのかと思って」
「さびしい、って、」
「俺がお前のそばを離れてたから」
「そんなこと、」
ない、とはっきり言えたらよかったのに。なぜか音にならない。
「……俺はお前が隣にいないと心配だし、寂しいって思うけど」
「過保護すぎだろ、子供じゃないんだから」
グースの言葉に、どうしたって嬉しいという気持ちが込み上げてくる。それが冗談だなんて聞かなくてもわかるのに。
「グースだって、おれだけのものにはならないだろ」
なんとなく面映ゆくなり顔を見られないようにして茶化した言葉が、思いのほか意味を持って響く。
間違えた。違う、そういう意味で言ったんじゃない。じゃあどういう意味で言ったんだっていうのはよくわからなかった。でも、本当に、そんなことを言うつもりじゃなかった。
「ワーオ、熱烈な告白?」
からりと笑うグースに救われた心地になる。一人で空回りして、馬鹿みたいだった。普通に考えたら冗談に捉える言葉なのに。邪な感情を持っているから、気づかれてしまうのではないかと変に勘繰ってしまう。
「じゃあ、マーヴは俺だけのものになってくれるのか?」
そうだ、冗談だって、わかるのに。
「おれの全部は、もう、グースにあげてると思ったけど……」
こんなの、なんてことないジョークの続きだ。
「……全部? 本当に?」
「ほんと…に、」
どうしてそんなことを聞くのかわからない。
それに、本当にグースにはすっかり全てを明け渡しているのだ。これより他に何が足りないというのか。
この茶番はいつまで続くんだろう。
心細くなって見上げた先の、グースから向けられた瞳に宿る熱を、おれは知らない。
……知らない?
「本当に、マーヴの全部は俺のもの、ってことでいい?」
これは茶番の延長なのか、それとももっと別の何かを孕んでいるのか。どっちなんだろう。どちらにしても、おれが返せる答えはイエスしかないけれど。
「……その代わり、グースも、おれだけのグースになってくれる?」
あぁ、だめだ。ただの茶番にしかならないな。