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    で@Z977

    @deatz977

    グスマヴェちゃんだけをまとめておく倉庫。
    🦆🐺至上主義強火。独自解釈多。閲覧注意。
    (全面的に自分用なので配慮に欠けています)

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    君と相棒になる日
    マがグスに少しだけ打ち解けてきた頃。
    派生元ついまとめ➠https://min.togetter.com/3P8Ls8f

    君と相棒になる日 人手を借りたかった。
     大した事ではないし、一人で出来ないことでもない。ただ、その、体格的に――身長的に、自分より背の高い誰かが手伝ってくれたなら、すごく助かる、と思っただけで。

     さして親しくしている特定の人物がいるわけではない。その中で、最近一緒にフライトした“グース”ことニック・ブラッドショーは、珍しくマーヴェリックにも偏見を持たずに屈託なく接してくれた人物だった。グースと同じアナポリス出身者からは“マザー・グース”などと呼ばれることもあり、マーヴェリックは、なるほど確かにマザーのようだ、と密かに納得した。

     ぴょこぴょこと小さな頭を上下させながらグースを探し歩く。数フィート先の部屋からドッと響いた笑い声に窓から顔を出す。輪の中心に見えたのは、尋ね人の姿。
     そうだ、彼の周りには、いつだって人が溢れている。
     底抜けに明るいニック・“グース”・ブラッドショーは、軽快なトークと人好きする柔和な表情で常に誰かを笑顔にしている。そんな彼に絆されそうになっているのは自分も同じで、マーヴェリックは途端に羞恥に襲われた。自分は彼に頼ろうとしているのではない。甘えようとしている。

     声をかけることは諦めた。グースのことだから声をかければ快く手を貸してくれるだろう。付き合いの浅いマーヴェリックでもそれくらいの確信は持てた。だが、そうやってその他大勢に向けられる優しさを享受することは、何故だか惨めなことにも思えた。マーヴェリックに向けられたグースの態度は特別なものではなく、単に彼が周囲に向ける眩しい救済のおこぼれに与っていただけなのだ。


    ―――


     もっとユニバーサルデザインを心掛けた設計にしろよ、と考えることすら詮無い。資料室の書架の前でまごつきながら、マーヴェリックは上段近くにある目当ての資料が入っていると思しき箱を睨んだ。無論室内には脚立があるのだからそれを使えば何の問題もない。既に数冊の資料を小脇に抱えて脚立を移動して、とその行動も何度か繰り返していた。しかし回数を重ねるたびに億劫さが募る。
     こんな時、体格に恵まれなかった己の身長が歯痒かった。パイロットは小柄なほうがいい、とも言われるが、自分よりも高い身長の奴らが操縦に於いて取り立てて劣っているとか困っているとかいうことも聞かない。慰めの言葉は低身長だったどっかのパイロットが嘯いただけじゃないのか。

     つい横着をして背伸びをしながら右手を伸ばす。ボックスの角に指先をひっかけてどうにか引っ張りだそうと躍起になる。ぎちぎちに詰まった資料の重みに抵抗を受けつつ、グッ、グッ、と手前に移動させていった。
     あと少し、と思ったところで想像よりも前のめりに資料箱が飛び出した。

     ヤバい。

     抱えている資料に防御の姿勢が遅れる。ぎゅっと目をつぶって身を竦めたのは反射だった。

    「あっ……ぶね…ッ!!」
     後ろから聞こえてきた叫びに反して、体を襲う衝撃は柔らかかった。身構えた衝撃が襲ってこない。何が起きたのかわからずに状況を把握しようと逡巡したところで、最近耳に馴染み始めた声が頭上から降ってきた。
    「マーヴェリック……お前、何してんだよ……」
    「グース、こそ、」
     どうして。
     声にならない疑問が脳を駆ける。柔らかな衝撃はグースの右腕に抱かれて彼の体に押し付けられたものだった。グースの大きな左手は、ちょうど降りかかるところだった頭上の箱を支えている。こんな時でも最適解を導く頭の回転に感心する。やっぱり優秀なRIOだな、と場違いなことを考えた。
     バランスを崩していたボックスを元のように行儀正しく押しやりながら、事もなげにグースが続ける。
    「俺に用があったんじゃねーの? お前が来たの見えたからさ。でもそのまま戻って行くし。どうしたかなって探してた」
     たったそれだけのことで。声をかけなかったのだからそのまま放っておいていいのに。書架に戻された箱にぼんやりと視線を向けたまま疑問符を浮かべる。
    「あぁ、これ、見るのか?」
    「え? あ、うん……」
    「ほいよ……っと、重いな」
     落ちなくて良かった、と独りごちるようにグースが呟いた。小さく礼を言って受け取ろうとしたが、「重いから」と断られる。やはり結構な重量があるらしいボックスは、既に見つけていたいくつかの資料と共に近くのデスクに置いてもらった。疲労を解すようにパキパキと首を鳴らすグースに声をかける。
    「女子供じゃないんだから、これくらい平気なのに」
    「俺の大事なパイロットに怪我させられねーの」
     “俺のパイロット”という言葉に落ち着かない心地になる。直近で数回組んだフライトを指していることは明白だったが、これまでどのRIOからも煙たがられた経験しかないマーヴェリックには新鮮な言葉だった。
    「他には?」
    「えっと……。あ、いや、その……あとは、ひとりで大丈夫」
    「なんでだよ、せっかく相棒がいるんだから使えよ」
    「相棒って、別に、」
     むず痒い言葉を惜しげもなくぽんぽんと投げかけるグースに居たたまれなくなる。数回のフライトでは確かに互いにトラブルはなかった。グースの指示は的確だったし、マーヴェリックの奔放な操縦を助長こそすれ抑えつけるようなことも咎めることもない。そのくせ普段よりもスムースな飛行になるのだから不思議だった。
     グースがRIOとして相棒になってくれればきっと心強い。飛びたいように飛んで、だけど、支えられている安心感が心地よい。
     けれど、そのことに溺れるわけにはいかない、とマーヴェリックは己を律した。自分と組みたがるRIOなどいないとわかっていた。偶然問題が起きなかっただけで、グースだってきっと、おれと飛ぶのが嫌になるに違いない。

    「……マーヴ? これで、俺を呼んだんじゃねーの?」
     何のことかと一瞬考えて合点がいく。先刻、グースを探していた時のことか。でも、
    「呼んでないだろ」
    「いや、えー……? うーん、だから、あーーーー! ったく、そうだけど!」
     つっけんどんな物言いしかできないことに自己嫌悪する。この面倒な性格が、いつも周囲との亀裂を生み、敬遠される一因だった。今だって、せっかく手を差し伸べてくれているグースに取る態度としては最低だと自覚している。
    「なぁ、俺を頼れよ。相棒だろ?」
    「相棒、か。……別に、嫌になったなら上官に進言すればいい。おれと組むのを嫌がるやつは多いから、上も慣れてるさ」
    「あのなぁ……」
     尚も言い募ろうとする様子のグースだったが、一頻り唸ったかと思うと諦めたのか納得したのか「わかった」と続けた。
     グースの嘆息が心を抉る。被害者ぶった心臓が痛んだ気がした。人を傷つけておきながら、了承されれば己が傷ついたふりをする。本当に面倒な自分の性格に呆れるしかない。グースとのフライトはまだ数えるほどだったけれど、すっかり懐かしい思い出になってしまうのが可笑しかった。美しい空の旅。

    「マーヴェリック」

     普段と違うグースの真剣な声は、付き合いの短いマーヴェリックではどういった意味を孕んでいるのか判別できなかった。怒りか、嘆きか。そのどちらでもあって、もっと恐ろしいものかもしれない。
    「上に進言してくる」

     行ってこい、と軽快に送り出そうとしたのに、何故だか喉が張り付いて言葉が出ない。それならば返事をする必要もなくて、項垂れて足元を見つめた。グースを視界に映すことは憚られた。
     きっと、“傷つけられました”なんて顔を晒してしまうだろうから。

     マーヴェリック、と再度コールサインを呼ばれ、仕方なしに声の方向を見遣る。廊下に続くドアに手を掛けたグースが、何かを吹っ切った清々しい笑顔を向けていた。
    「これからも、俺と組もう。お前と組みたいって、上に言ってくる」
    「…………は?」
     なんで。どうして。おれと。だって。おれは。


    「戻ってくるから。ここで待ってろよ」

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