skinship distance 距離が近い、というのは“自分の常識の範囲内では”というだけの話なので、もしかしたらこれくらいの距離は普通なのかもしれない。
「さっきの操縦、神業だったな」って髪の毛をくしゃくしゃにされるのも、「俺達最高のコンビだよな」ってハグされるのも、「俺の指示、ちゃんと聞いてくれてありがとな」って額にキスを降らされるのも、全部、“相棒”なら誰もがするんだろう。
これまでのマーヴェリックには、あいにく心を通わせてフライトをするような相棒はいなかった。お疲れ、と握手したり、軽く背中を叩いたりはあったが、それは共に飛んだ相手に対する必要最低限のコミュニケーションと労いだった。
グースから与えられるものはその“最低限”からは逸脱しているように思う。
そうは言っても特定の相手と専属で飛ぶことはなかったのだから、やはりそれについての常識はマーヴェリックには判断がつかない。思い返してみれば、日常茶飯事の光景として、熱いハグを交わしたり明らかに近い距離で肩を組んだりしているコンビは目にしている。ような気もした。
「マーヴ! さっきの操縦すごかったな!」
ぎゅーっと正面からきつく抱きしめられる。緊張感が解かれた体には、未だ冷めることのない興奮が熱を帯びている。高めの体温を感じながら、汗の匂いの混じるグースの胸板に額を押し付けられる。
きっと“相棒”ならこの距離も普通なんだ。
グースからいつも与えられるハグやキスが嫌なわけじゃない。むしろ嬉しいとさえ感じている、というのは認めざるを得ない。一緒に飛んで喜びを分かち合う。そのスキンシップにとても心が充足している。
マーヴェリックはグースにその充足を返したかった。
不慣れなスキンシップに戸惑いながら、マーヴェリックはおずおずとグースの背中に腕を回した。そっと抱きしめ返すと、一層グースの拘束がきつくなる。ちゅ、と頬にキスをされるのも最近では慣れてきた。気恥ずかしさはまだあるものの、グースから貰える労いと称賛のスキンシップはどんなものもマーヴェリックの心をあたたかくする。
「グース」
「ん? どした?」
苦しさに声をかけたと思われたのか、くぐもった声で呼びかけると、そっと腕の拘束が解かれた。上目遣いに見つめることしか出来ずにもどかしい。グースの額に唇を寄せるには、どうしても身長が足りない。
「マーヴ?」
くしゃりと頭を撫でられて人心地つく。グースの手のひらは気持ちいい。
「おれも、グースにちゅーしたい」
「……ん?」
「いっつも、してくれるだろ? だから、おれも、お疲れ、ってしたい」
お前のおかげで最近調子よく飛べるから、ともごもごと理由を述べる。もしかしたら少し言い訳がましく聞こえたかもしれない。疚しさなんて何もない、本心だけれど。
「お、マーヴもしてくれるのか? ほら、どーぞ」
屈んで顔を俯けてくれたグースの肩に手を置いて、汗の滲む額へ背伸び気味にキスをする。ちぅ、と名残惜しむ音を残して唇を離した。
「へへ、グース、お疲れさま」
「ん、お疲れ。ありがとな」
柔らかく微笑んだグースから、相変わらずのキスが額に返される。少しかさついた柔らかな感触に頬が緩んだ。
どうしてこんなにも心が満たされるんだろう。きっと今まで知らなかっただけで、“相棒”っていうのは特別なんだ。
あたたかくなった胸の奥にもっと熱い何かがあるような気がする。
けれどアドレナリンで興奮しきった体では繊細な熱に気付けるはずもなく、マーヴェリックは心通った相棒のぬくもりにもう一度ハグをした。