かぷかぷ 結局ベッドに連れ戻されたおれは、背中にグースのぬくもりを感じながらその時を静かに待っていた。ぎゅう、と後ろから抱きしめられて、グースの吐息が耳や首筋を掠める感覚にゾクゾクする。
ドキドキして息が乱れそうになるのを意識的な呼吸で誤魔化そうとするけれど全く上手くいかない。むしろグースが熱い呼気と共に囁いた「マーヴ」の音が鼓膜から脳を揺さぶって、一層呼吸が乱れた。
「……ッ」
かぷ、と犬歯を突き立てるようにうなじを噛まれる。そのままグッと力を込められ、グースの歯が押し付けられた。本能的な恐怖が、快感に変換される。
「っ、は、……ぁ、ぁ、ぐーす……」
ちゅう、と強い吸い付きにチリとした痛みを感じた。離された唇が、その場所をもう一度なぞった感覚にビクンと体が震える。
「ん、……ァ、」
「マーヴ」
「ぐー、す、」
「はは、かわいい」
漏れた笑みに合わせて頬に落とされたキスがくすぐったい。背中のあたたかさに安心するけれど、こんな時は一方的にされるハグだけじゃ足りなくなってしまうのが難点だった。
おれもグースをハグしたい。
腕の中でもぞもぞと身じろぎをすれば少しだけ腕の拘束が緩まった。
「マーヴ?」
「グース、おれも、」
「お前もする?」
「あ、じゃなくて、……ぎゅって、」
グースが体の向きを変えようとしたことに気づき、制止してしどろもどろに意思を伝える。とはいえ、よく考えたら制止する必要なんてなくて、グースのうなじに所有の痕をつける、というのも魅力的だったかもしれない。
だけど緩められた腕の力に体を反転させれば大好きなグースの瞳がやわらかくおれを捉えていて、あぁ、やっぱりこっちで間違ってなかったんだって思った。
「ん、ぅ、」
グースの胸に収まりよく顔を押し付けると長い腕が背中に回された。
うれしい。
しあわせ。
ぎゅっと抱きしめ返すとクスリと笑ったグースの唇がリップ音と共に旋毛に触れた。
あぁ、おれも、ぐーすを、
再び身じろぎを始めたおれに気づいたグースは、今度は何も言わずに腕を緩めてくれた。クスクスと漏れる笑いに幼い子供を愛おしむみたいな甘い色を見つけてなんとなくむず痒い。
うんしょ、とグースの首筋に辿り着き、やわらかく食む。
「何、やっぱりお前も食べるの?」
「…………ん。たべ、る…」
「お前食い意地張ってるからな。お手柔らかに頼むぜ」
そんなふうに言いながら、おれの頭をクシャクシャに撫でてくれるグースの手は優しい。
そっと口を広げて再度グースの首筋を捕らえる。適当な力加減で歯を立てるのは存外難しくて、何度かかぷかぷと甘咬みを繰り返した。ふふ、と笑う吐息が頭上から聞こえる。
「マーヴ、ひと思いにやれよ。くすぐったい」
「でも、」
「ほら、いいから」
ガブリ。頭を撫でるグースの手のひらに励まされて思い切り噛み付いた。
ほのかな鉄の薫りが咥内に広がる。
あぁ、グースを、傷つけてしまった。
「っ、ぁ、ぐーす、ご、ごめん、」
ちゅ、ちゅ、と傷ついたその場所を啄む。なんの慰めにもならないのに、そうしたかった。
「んー?」
ペタペタと確かめるように己の首筋をなぞった指先に薄らと滲む赤いものを確認したグースが笑う。
「派手にやったなぁ」
「ごめん……うまくできなくて」
「いいって。ひと思いにやれって言っただろ。上手にできてる」
どう考えても上手になんてできていないはずなのに、グースの柔らかい声と頬を撫でる手のひらに安心する。血が滲みはじめた痕をもう一度啄んで胸板に頬を寄せた。
グースの心音が心地良い。
「マーヴ? 眠くなった?」
よくわからないけれど、そうなのかもしれない。
「頑張ったもんな。今日はもう寝ようぜ」
ぽんぽんと背中を撫でる手のひらの優しさをずっと感じていたい。それなのに意識は遠退いてきて、大好きなグースの匂いやぬくもりまでぼんやりとしてくる。
次にグースのあたたかさをしっかりと感じたのは、朝の光が差し込んできた時だった。けれど、やわらかな幸せに包まれたままもう少しだけグースの腕の中に浸っていたくて、胸板に額を押し付ける。背中に回っていた腕の力が応えるように強くなり、おれの元を再びまどろみが訪れた。