はやくおきたあさに 太陽の光が頬を撫で、瞼に起床時間が過ぎたことを告げてくるのを感じながら、グースは腕の中のぬくもりを強く抱きしめた。心地良いやわらかなあたたかさが、ふたたび夢の中に連れ戻そうとする。このまま眠ってしまいたい。寝ぼけた体内時計も空腹を訴え始めているのに、どうにも幸せな時間から抜け出したくない。
あぁ、起きないと。
起床後の行動を思い描く。腹を空かせた小さな狼がぐずる前に軽く食べられるものを作って、それから。そういえば昨夜の洗濯はどうしたんだったか。今日の予定は何だったか。眠る前にまどろみながら話していたワークアウトのことはどうでも良くて、その前の夕飯時に「最近話題のアイスクリーム屋のワゴンがこの辺を回ってるらしいんだけど」と口にしていた時のほうが目を輝かせていた気がする。肉のほうがいいんじゃねーの、なんて誂えば唇を尖らせて「だって、限定のフレーバーが」とか言い始めるものだから、もうひとつ子供とか女の子とかみたいだと思ったけれど、それは言わなかった。むくれているのが可愛くて「それなら俺も食べてみたい」と返してやれば、「グースって案外子供だな」と笑われた。とにかく、昼からそのワゴンを探しに行くのもいいかもしれない。
しかし、何にせよそのためにはまずこの幸福なぬくもりを一度手放さなければ。マーヴェリックはまだ夢の中だろうから、寝顔を少し堪能して、頭を撫でて、ぐっすり眠っているようなら、頬に触れるだけのキスをして……。
そうだ。この煌めく星々を閉じ込めている美しい瞳が静かに開く前に――。
「あ、おはよ、グース」
「…………ぉはよ…」
どうした、と続けようとしたが寝起き特有の掠れた声では明瞭な音を発することが出来ずに諦める。眼前できらきらしている瞳にボサボサ頭の男が映った気がして、クシャリとマーヴェリックの髪の毛を撫でた。ふふ、と嬉しそうな甘い吐息が二人の間にふわふわと漂う。
「起きてたのか? 起こせばよかったのに」
退屈を嫌う男が自分が起きるまで腕の中に収まったまま辛抱強く待っていたのかと思うとなんだか可笑しかった。腹でも空かせていたんじゃないのか。
「でも、グース気持ちよさそうに寝てたし……」
ふわりと笑みながら言うマーヴェリックの声からは苛立ちの色など微塵も感じられなかった。愛おしいものを見るような、愛と慈しみを纏う瞳が優しく細められて「それに、」と続ける。
「こんなに近くでグースの寝顔見ること、あんまりないし」
「お前いっつも起きるの遅いもんな」
「今日はグースの方がねぼすけだっただろ」
口調に反して柔らかな光を反射したままのアースアイに、どうしたって愛おしさが込み上げる。
あぁ、好きだな、可愛いな。感情が抑えきれずに自然と上がる己の口角に気づくけれどどうすることもできない。マーヴェリックまでエヘヘと笑い、機嫌がよさそうだ。
「どうした? 朝からご機嫌だな」
「おれ、グースのその顔見るの、好きだから」
「どんな顔だよ?」
「うーん、内緒!」
「何か変な顔でもしてたかぁ?」
おれだけの秘密なんだ、と嬉しそうに笑うマーヴェリックが愛おしい。一頻りくすくす笑い合って、マーヴェリックの髪の毛をもうひと撫でして額にキスをする。
今度こそ、もうそろそろ起きる時間だ。ぬくもりを引き連れてベッドを後にすれば、幸せなあたたかさを失うこともなさそうだった。
なぁマーヴ、俺はどんな顔をしてた?
お前のことが好きだ、って考えてたはずだけど。