もふもふミトン クリスマスのイルミネーションが彩る街の賑やかさに、頬を打つ冷たい風が溶けていく。
色とりどりに飾られた大きなツリーが、赤青黄や緑に白など様々に光る電飾が、マーヴェリックとグースを少しばかり現実から切り離していた。ブラッドリーへのクリスマスギフトを探すために朝から訪れていたホリデーマーケットはすっかり闇に覆われているはずなのに、普段よりも一層煌びやかで明るい世界がそこにあった。
あれやこれやと購入したプレゼントを二人で分担して車まで運んで一息つけば、思い出したかのように腹時計が空腹を告げた。ちょっと待ってろよ、と立ち並ぶストリートフードの露店に消えていくグースを見送って、マーヴェリックは適当な場所に腰を落ち着けた。ひんやりとした温度が臀部から伝わってきて無意識に体が震える。
マーヴェリックは、ふと自分の手を包む柔らかなもふもふミトンを見遣った。とてもじゃないが二十代の男が着けていて様になるようなものではないな、と冷静な考えが頭を過る。それでもミトンを見つめて手を握ったり開いたりしながら、マーヴェリックは己の頬が緩むのを感じていた。たとえ似合わなくても、このもふもふミトンは特別なものなのだ。
そもそも指先をあたためているもふもふなミトンは、決してマーヴェリックの趣味というわけではない。それなのに普段から愛用しているレザーグローブを着用していないのは、今身に着けているミトンをくれた相手と出掛けているからという単純な理由にほかならなかった。
マーヴェリックがもふもふミトンを手に入れたその日は、想定外に特別寒い日だった。突然の寒波の到来に冷たくなった指先をグースが握ったり擦ったりしてあたためてくれて、これじゃあ埒が明かないな、と道すがらで購入してくれたのが真白な羽毛を思わせるもふもふなミトンだった。とりあえずこれでいいだろ、と嵌められたのは普段使用しているグローブに比べたら安価なもので、間に合わせに与えられたものだということは明白だったのに。
それ以来、マーヴェリックはグースと出掛ける際の防寒をもふもふミトンに頼っている。
グースが露店で買ってきてくれた熱々のミートパイを頬張って、汚れた口元を子供みたいに拭われたことに恥ずかしさでぽこぽこ怒りながら今度こそ帰路に就くためにもう一度パーキングを目指す。腹が膨れて体があたたかくなったところでぽやぽやとした頭で道行く人たちを見遣りながら連れ立って歩いた。右に左に視線を動かせば、そこかしこに映るのは幸せな恋人や家族の姿。
いいな、と思った。ああやって、幸せそうに、寄り添って、
「こら、マーヴ」
ぐいと手を引かれるままに、ぽすんとグースの体に抱き寄せられる。
「どこ行くんだよ。危ないだろ。ほら」
「……ん、」
ぎゅ、と握られた手が嬉しくて、少しだけ寂しい。贅沢なわがままだ。
こうやって手を繋いで歩くことだって、奇跡みたいなものなのに。
「マーヴ? どうした?」
「え、いや? 何でも……」
「そうか? なんかあるんじゃねーの?」
街中で堂々と指を絡める恋人たちの姿が眩しい。グースから貰ったもふもふミトンは嬉しいけれど、おれもああやってグースと指を絡められたらな、なんて万が一にも有り得ないことを夢見る。
あんなの、ただの相棒で、親友のおれたちが、するようなことじゃないのに。
「マーヴ」
殊更強く体を寄せられて、至近距離に迫るグースの顔に少しの期待をして身構えた。けれど勿論おれたちに何かが起こるわけでもなく、ただ、グースが羽織るチャコールグレーのチェスターコートのポケットに、もふもふミトンごと繋いだ手を連れ去られただけだ。
まるで、道行く恋人みたいに。
「なんか、今日のお前、危なっかしいから」
「なんだよ、それ、」
ぶつくさと唇を尖らせながら、グースに身を寄せる。
おれが危なっかしいから、仕方がないんだ。これは、グースに迷惑をかけないように、しなきゃいけないこと、なんだ、から。
自然と緩む口元を隠すように、グースにリボン結びされた大きめのマフラーに顔を埋める。
あたたかなポケットの中で、もふもふミトンごとおれの手を握る力がもうひとつ強くなった。心がほっと満たされて、ぎゅ、と握り返す。
もふもふの中で触れられていない手のひらが、少しずつ温度を上げていった。