君に残す物語【ごくパ展示】 部屋は眩い光に包まれていた。回復呪文の淡緑の光はロカに惜しみなく注がれ、やがて霧散していく。
マトリフは回復呪文を唱えながら、ロカに目をやった。その瞼は閉じられ、その奥にある瞳を長く見ていない。このままでは笑った顔すら忘れてしまいそうだと思う。
「マトリフ、もういいわ」
レイラの手がやんわりとマトリフの手を止める。マトリフはまだ諦めきれない気持ちでロカの顔を見ながら、回復呪文をやめた。
「疲れたでしょう。お茶を淹れてくるから」
レイラは床で遊んでいたマァムに、おいでと誘ったが、マァムは首を横に振って手にした積み木をさらに積み上げた。
「マトリフおじさん、つみきしよう」
マァムは手にした丸い積み木をマトリフに差し出す。ロカが寝ているこの部屋が、すっかりマァムの遊び場になっているらしく、ベッドの周りにはおもちゃが散乱していた。
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