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    pheas357

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    pheas357

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    北工場長が危ない時に体張って盾になる南工場長っていいよねという話。

    ※ケガ描写とかあるよ※
    ※この話自体にカプ要素はありませんが書いた人は南×北派だったけど最近北×南もいいよねと思い始めている腐です※

    こんなに険しい地形の中を歩くのは随分と久しぶりだな、とネジキは思う。もともとあまり運動神経のよい方ではない上に、足元の悪さは歩き慣れるという事がなさそうに思える。それでも何メートルか先を歩くダツラに遅れないようにと足を下ろす場所に集中しながら進んでいった。

    足元にばかり集中しすぎていたらしい。前方でダツラの叫び声と、横の崖の上で何か大きな音がして我に返る。見上げた目に、崖を転がり落ちてくる石が映る。ちょうど自分のいる場所に向かってきている事は理解できた。一瞬遅れて避けなければならない、と判断するが、足どころか全身が竦んでしまっていた。
    唯一とれる行動として両目をきつく閉じる。一瞬後に体の正面に何かがぶつかるような感覚があったが、予想していたような衝撃や痛みはなかった。死ぬ時ってこんな感じなのかな、せめてこのくらい楽なまま死ねるならいいなーとぼんやり考える。
    じっとしていたが、次第に思考や感覚が鮮明さを取り戻す。体の前面に触れているものは岩にしてはやけに温かく柔らかかった。自分はまだ生きているのだろうかと考えながら、体を後ろにずらして目を開く。ぼやけ気味の視界のほとんどが濃紺色に蔽われていた。何度か瞬きしてピントを合わせる。
    「…………ダツラ…さん……?」
    普段よりかすれ気味の声をどうにか絞り出す。
    「ケガぁ、ねえか?」
    言われて初めて体の各部を確認する。傷も痛む箇所もなかった・
    「大丈夫……です……」
    「そうか、よかったな」
    言いながら背中を叩かれる。
    そういえば初対面の時にも挨拶と一緒にやはり背を叩かれたものだった。その時はずいぶんとなれなれしい人だと思い、苦手意識を持ったが、いつの間にか気にならなくなり、安心感に近いものを感じるようになっていた。
    背に当たる手の感触と危機的状況を脱したという認識に、緊張が解けて全身の力が抜けかかる。目を閉じてそのままダツラに全身を預けそうになって……

    違和感に脳が急速に覚醒し、閉じかけていた意識が引き戻される。
    背中に回されているのは左手だった。たしかこの人右利きだったような、とこれまでの事を思い出す。いつも背を叩くのも、ボールを投げるのも、普段片手で行う動作は間違いなく右手を使っていたはずだ。
    立っている周囲を改めてよく見る。先ほど崩れて来た岩に取り囲まれていた。そんな状況の中、自分にケガひとつ無かったのは……
    「…………!」
    ダツラの右手に目を向けて言葉を失う。右腕には長く裂傷が走っていて、周囲の服や足元を濡らしていた。
    「ダツラさん……、ケガ…………!」
    体が小さく震えだす。宥めるようにダツラの左手がもう一度背を叩いた。
    「いいって事よ、だいたいおめえのそんな細い体じゃあ、この程度じゃ済まなかったろ」
    見上げた顔はいつもと変わらない様子で笑っていた。どういうわけかほんの一瞬、ダツラにとってこの程度の傷は本当に大したことないのかもしれないという考えが芽生える。そのまま笑みを返そうとして
    不意にダツラの顔から表情が消えて、続けて全身が覆いかぶさるようにして倒れてきた。自分でも何を言っているかわからないままとにかく何事か叫びながら、両腕と肩を使って支える。目は閉じていたものの聞こえているのかわずかに口元が動くが、声は出なかった。
    自分より大きな体をなんとかしてもう少し平坦で足元の安定した場所へ移動させようとする。足を引きずってしまうのはこの際仕方がないと思う事にして、自分の足も引きずるように動かしながらやっとの事で運んで行った。
    既に気を失っているらしく、ぐったりして反応のない体をゆっくりと下ろす。腕の傷に止血や応急処置をしてから、他にケガがないか全身を調べていく。背中と脚に何か所か岩が当たったと思われる打ち身のような痕があったが、外側から見える範囲では他に大きなケガはなさそうだった。
    骨や内臓にこれ以上影響がない事を祈りながら他の部分にも応急処置をして、あとはとにかく急いで病院に連れて行かなくてはと考えていた。
    幸いというか、ダツラはちょうどピジョットを連れていた。しっかり鍛えられているし、ふもとの町までなら2人乗せて飛べそうに思えた。
    周りを見ると、山男などが手持ちだけでは間に合わなくなった時にロープの代わりに使うという頑丈なつる植物が生えていた。取って来て白衣と合わせ、簡易的なスリングにする。体の前にしっかりと抱えてから慎重にピジョットの背に乗った。嘴と片足も借りておさえているので、これなら飛行中も余計な揺れを防いで安定して運んでいけるだろう。
    町に着くまでの時間がやけに長く感じられる。時折呼吸や脈を確認しながら、生きてる、ちゃんと生きてると念じ続け、余計な事は頭から追い出した。ようやく建物の影が見えはじめたところでなるべく近くの病院を調べて連絡を入れる。
    前庭に降り立ったところへ、待機していたスタッフと助手のハピナスがやってきて、てきぱきとした動作でストレッチャーに乗せて中へと運んで行った。
    ピジョットにねぎらいの言葉をかけながらボールに戻し、後に付いていく。処置室に入ったのを見届けてから近くにあった椅子に腰を下ろして、じっと扉を見つめ続けた。
    部屋を使用中であることを示すランプが消えないうちに扉が開き、看護師が1人出てきた。頭の内側で大きくこだまするような鼓動を感じながら、体はしっかりと立ち上がって、話をする体制に入っている。命に別状ない事、腕の治療のために何日か入院が必要だがおそらく後遺症の心配はない事など、とにかく最悪の事態は回避できたと知って少しだけ楽な気持ちになる。
    戻って行って扉が閉まるのを見届けてから少し大きめに息をつき、再びもとの位置に座り直す。ここに着いた時に時刻を確認したが、そういえばその後時間を気にする余裕も無かったと思いながら壁にかけられた時計を見ると、思ったほど時間はたっていなかった。もう一度息をついてから、先程と同じように扉に目を移して待つことにする。
    予想していたより早くランプが消えて扉が開かれた。促され、ストレッチャーを押していくハピナスの横について一緒に病室へと向かう。まだ意識が戻っていなかったが、先程よりは呼吸も表情も安定していることに多少の安堵を覚えた。
    ベッドの横に置かれた椅子にじっと座って、再び目を開けてくれるのを待ち続ける。永遠のように思える短い時間の後、喉からわずかな声がもれる。
    思わず勢いよく上半身を乗り出すのと、ダツラが目を開くのがほぼ同時だった。
    「ダツラさん!」
    声に反応してゆっくりと顔がこちらを向く。まだ力の無い目が何度かまばたきする。そうしながら自分の状況をだいたい把握したらしい。
    「……おめえが連れてきてくれたのか?」
    聞かれて無言でうなずく。
    「そうか、ありがとな」
    言いながら上体を起こそうとしたが、わずかに浮いたところで痛みに呻き声をあげ、顔をしかめて再びベッドに沈む。そのまましばらく眉を寄せて苦しそうに喘いでいた。
    どうすることも出来ず、ネジキはただダツラの左手を包むようにして握る。ようやく呼吸が落ち着き、ダツラが自嘲気味に笑う。
    「……ったく、情けねぇとこ見られちまったな……」
    「そんな……!」
    知らず声が大きくなる。
    「……そんな事……、ないです……」
    今度はいつもより少し小さく、泣き声になる。
    「……ぼくの事、助けてくれたのに……情けないなんて言わないでください……」
    しゃくり上げながら、声を絞り出す。
    「……ごめんなさい、……ぼくがちゃんと逃げてたら、こんなケガすることなかったのに……」
    「いいんだ」
    ダツラがふ、と優しい顔になる。
    「大人として、子供を守っただけだよ、おめえが無事だったんなら、それでいい」
    痛みを感じさせない穏やかな顔と声だった。我慢できなくなって、握ったままだった左手にすがりつくようにして、ネジキは本格的に泣き出した。
    「大丈夫、大丈夫だから」
    ダツラがネジキの手を軽く握り返す。涙を流しながらも少し顔を上げたネジキと目が合うと、一度優しく笑ってからゆっくりと目を閉じた。続けて力の抜けた左手を、ネジキはそっとベッドに下ろす。
    手を伸ばして2、3度髪を軽くなでる。後は体力の回復のためにしばらく寝かせておこうと思って、自分は椅子に座り直した。
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