いとひな 小話「___ほら、じっとして。動かないで。」
「は、はいぃ…」
私は今、絃先輩を眼前で、目を閉じている。
瞼にかかる柔らかい感触がどうしてもくすぐったくてみじろぎするけれど、動いてしまわないようにグッと体に力を込めて堪えていた。
文面から見ればどのような光景に思われるか分からないが、実際問題、彼が手にしているのはファンデーションのパフだった。そばの机に置かれたのは、把握できない程の種類があるメイク道具達。
これは全て、この刹那木学園の演劇部のものだった。
「絃〜、ちょっとこの衣装のほつれ直して欲しいんだけど」
「はいはい。そこに置いといて」
「絃先輩、後で音響チェックしてもらえませんか?」
「分かった。後で行くね」
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