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    いきる

    @baleine_0101

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    いきる

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    白ひげ誕生日おめでとうございます!(大遅刻)
    4月6日の誕生花「ナスタチウム」がエースくんぽくて書いたお話です。
    花言葉が「勝利」「愛国心」「恋の炎」って盛りだくさんすぎやろ……。白エー、いちゃいちゃしてくれ。

    春夜 白い鯨を模した親船の上には、柔らかい風が吹いている。
     穏やかな夜の海だ。日付も変わった丑三つ時、海底の生き物も寝静まった頃合いに、されど船上は何時にも増して騒がしい。 
     喧騒の所以である宴会は、数時間前から始まった。いつもなら飲みすぎた誰かしらが、へろへろと甲板から抜け始めるところだが、今晩は賑わいを留めることなく人が集まってくる。
     それもそのはず──指針が0を超えた現在の日時は、4月6日。白ひげの誕生日だ。
     男たちは、愛する船長の生誕の日に、眠ることを知らない子どものように騒ぎまくる。贈り物である酒樽や瓶をごろごろと甲板に転がしながら、誰もが「オヤジ」と声を昂らせて白ひげを囲い込んでいた。
    「グラララ……派手にやりやがって。ありがとよ」
     白ひげが告げるその言葉に、船上は一層盛り上がった。星空に負けぬ雄大な体は、時おり派手に笑い声を上げ、愛するバカ息子たちの頭を撫でたり小突いたりする。
     賑やかで、誰もが幸福な夜。そんな場にどうしてか、とある男の姿がどこにも見当たらなかった。背中にでかでかと親父の印を掲げた青年──エースは、現在大急ぎで船へと戻っていた。

     遡ること半日。晴れ渡る空のもと、隊員のひとりに告げられた衝撃の事実に、エースはストライカーで船を飛び出した。
     明日はオヤジの誕生日だと──!
     そんな大事なことをなぜ早く言わないのかエースはキレ気味だったが、どうやら船上では例年どおり、数日前から話題になっていたらしい。エースは度重なる遠征により、すっかり聞き逃していたようだった。
     怒っていても仕方がない。びゅんびゅんと風を切りながら、エースは新世界の海上をひた走った。目指すは、繁華街を有する島。目的は、親愛なる白ひげに贈るプレゼント探しだ。
     何が相応しいかと云々と唸りながら飛ばしまくって1時間、ようやく見えてきた有人島に、エースは胸をなでおろしながら寄港する。大きな港街に立ち並ぶ、春島らしい色とりどりの出店を前にして、エースは意気込んで人混みに入っていった。
     さて、どうするか。
     時計の針は既に午後3時を回っていて、すぐに決めないと宴に間に合わない頃合いだった。エースは改めて、白ひげにぴったりの相応しいプレゼントを考えてみる。
     ぱっと思い浮かぶものといえば、やはり「酒」だ。あれはオヤジが家族の次に愛するものだと言っても過言ではない。ナースたちにどやされる可能性は十二分にあるが、贈って喜ばれること間違いなしだ。
     万事解決——となる筈が、その選択に、なぜだかエースは納得がいかなかった。こんなひょいと来た島で、ひょいと買ってきた酒を送っただけで、オヤジに日頃の感謝が伝わるだろうか。白ひげへの敬意と情熱に溢れたエースの頭は、もやもやとそんなことを考えてしまう。
     もっとインパクトのあるような、オヤジがとびきり驚いて喜ぶものをやりたい。年に一度の誕生日なら尚更、派手で記憶に残るもんがいい。
     概念ばかりがぽんぽんと思い浮かぶも、具体的な何かは全く出てこない。再びウンウンと唸りながら脳をフル回転させて歩き回っていると、ふと、エースの視界に鮮やかな色が映り込んだ。
     ——花屋だ。美しい色合いの生花が、店の前を埋め尽くすように並んでいる。
     そばで動き回るのは、恐らく店主だろう。見るからに人の良さそうな笑顔を浮かべた男は、数人の客とあれやこれやと話をしながら束を作っている。
     なんてことはない、一軒の花屋。花より団子なエースなら、普段は目もくれずに通り過ぎてしまうところ。だが、今は何故だか目を惹かれる。
     花束を受け取った客が、何だか妙に嬉しそうに見えたからかもしれない。オヤジもあんな風に笑ってくれっかな、なんてエースが頭の中で思った時には既に、足取りは花屋の方へと向かっていた。
    「おう、若い兄ちゃんだな!贈りもんか」
     陽気な声に呼び掛けられ、エースはハッとして顔を上げた。いつの間にか花を見ていたことに気付いて、目を瞬かせる。
    「そ、そんなもんだ……。何かおすすめのやつはあるかい?」
     気恥ずかしさから無意識にはにかんで問いかけると、店主は意気揚々とエースの隣に立ち並んだ。
    「そうだなァ、この辺りの春の花はおすすめだ!何つったって旬だからな。ガーベラ、チューリップ、マーガレット……ライラックなんかも人気だ」
     あれやこれやと勧めながら、男は太く無骨な指先で丁寧に花を摘まんでいく。ラッピング前の、けれど十分さまになっている春色の花束を目に、エースは感心したような声を上げた。
    「おお!綺麗なもんだな」
    「だろ。ま、これは試しだ。兄ちゃんの好きなように変えることもできるぜ」
     男はそう気さくに言って、ピンク色の花を増やしてみせる。すると、花束は先程よりも少しだけ可愛らしい印象になった。
     なるほどこれは、センスを問われるものだ。エースは微かに唸りを上げる。
    「そうだな……」
     腕組で花々を眺め、どの花が一番オヤジに相応しく映るかを吟味する。白ひげの名のとおり、見てくれには白が似合いそうではあるが、生誕の日に贈るのであれば派手な色の方がいい。黄色、ピンク、オレンジと、忙しく目を動かしていると、下段の隅にある花の色に視線が止まった。
    「……これ、いいな」
     しゃがみ込んで近付いたエースの顔の前には、鮮やかな赤色。すこしオレンジ色を混ぜたような絶妙な色味は、朝焼けの空によく似ている。
     船上で、オヤジがしばしば眺めている景色だ。きっと気に入るに違いない。そう見込んだエースは、輝くような笑顔で店主に物申した。
    「この花、あるだけ全部まとめてくれ!」
     
     そんなこんなで作ってもらった特大の花束を背に、エースはうきうきで帰路についた。この時ちょうど午後の4時。急いで戻れば、夕暮れの最高なシチュエーションで渡すことができるだろう。
     とにかく早く戻ろう。その意志でストライカーを走らせていたのだが、向かう方角に数隻の海軍船を発見し、エースは立ち止まる。いつもどおり正面突破——といきたいところであったが、迎え撃つ砲丸など掠めて花束を散らしてしまうといけない。
     エースには珍しい「遠回り」の選択をして、海軍に見つからないよう通り過ぎる。ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、今度は海面が大きく波打ち、ストライカーの真下から海鳴りの音が轟いた。
     ——大型海王類の群れだ。エースが気付いたのと同時に、体がストライカーごと宙に浮いた。にょきにょきと海面から顔を出す海王類は、雄叫びにも似た禍々しい声を上げ、落ちゆくエースを飲み込もうとする。
     カームベルトに巣をもつ奴らがなぜ——と、考える間も無い。エースは空中で素早く体を炎に変える。花に火種が触れないよう注意しながら、そのままプチ火拳を打ちかました。
     焼け焦げる体に、断末魔の叫びを洩らす海王類。一件落着かと思いきや、海面からはその叫びに誘われたかのように次々と代わりがやってくる。
    「だーー!どうなってんだよココはッ!」
     ここにきて、なぜこんなにも面倒が続くのか。エースは怒りに叫びながら、進路を邪魔する怪物共を薙ぎ倒していく。その後も突然のスコール——更には、名も知らぬ馬鹿な海賊船に喧嘩を売られるなど、新世界らしい混沌とした災難が、途絶えることなくエースを襲った。
     エースは苛つきを露わにしながら、それらひとつひとつを押し退けていく。そうしてハッと気付いた時にはもう、周囲は闇に包まれていた。
     夕暮れ時にプレゼントを渡す——そんな希望は呆気なく崩れ、その上、宴会も遅刻確定だ。エースはがっくりと肩を落とす。
     けれどもすぐに目をカッ開き、ストライカーのスピードを上げた。背中には、これまでの災難から必死に守った美しい花束がある。結局はこれをオヤジに渡すことができれば、万歳なのだ。エースは白ひげの喜ぶ顔を思い浮かべながら、暗い海の上を超特急で駆け抜けていく。
     ——早く渡して驚かせてやりてェ。
     そんな思いで直走り、どうにかして辿り着いたモビーディック号。
     エースは汚れも擦り傷も気にすることなく、大急ぎで白ひげのもとに向かった。

    「おい!遅ェじゃねえかエース、何やってんだ!」
    「待ちくたびれたぜェ、エース!腹でも下してたのかァ!?」
     皆の愛する末っ子の帰還に、周囲が次々とヤジを飛ばす。すっかり出来上がった船員たちは、何やら馬鹿デカい花束を抱えて走るエースの姿が面白くてたまらないらしい。
    「おれァオヤジに用があんだ!邪魔すんじゃねェ!」
    「おいおいつれねェこと言うなよ!なんだその真っ赤な花は」
     船員のひとりに肩を掴まれ、エースはムッと顔を顰める。気付けば酒を片手に持った男たちが、わらわらと陽気に寄り集まっていた。
    「ったく、プレゼントだよオヤジへの!」
    「オヤジにィ!?ぎゃははっ正気かおめェ!オヤジは女じゃねぇぞ!」
     とある船員のリアクションに、周囲がどっと爆笑に満ちた。そうだそうだ、恋人にやるんじゃあるめェし、と次から次へと揶揄いの言葉が飛んでくる。
     エースは驚きのあまり、その場でしばし固まってしまった。けれどもすぐに、むさ苦しい男共の野次に含む——『花束は女にやるものだ』という意味を理解して、顔を真っ赤に染め上げる。
    「っ……部屋戻る!」
     進行方向をまるっと逆にして、エースはづかづかと音を立てて歩き出した。全身に汗を浮かべて、花束の先を握り締めながら自室へ向かう。
     辺りは容赦ない笑い声に囲まれているが、構うことなく人混みを掻き分けていく。正直なところは、今すぐに炎となってこの場を去りたい気持ちだ。けれども隊長のプライドにかけて、逃げ隠れるようなことはしない。あくまで自室に戻るのだという姿勢で、奥歯を噛み締めながら前進する。
     ──こんなバカみてぇに笑われる贈り物じゃあ、オヤジも喜ばねェ。
     羞恥と怒りに塗れた心の中で、エースはそんなことを思う。歩きながら、目元にすこしだけ滲んだ涙を拭おうとしたその時、前方から親父の気配を感じた。
     てっきり船首にいると思っていたデカい体は、いつの間にかエースを通せんぼするように立ちはだかっている。
     海の底のような目で見下ろされ、エースはぽかんと口を半開きにした間抜けヅラを晒した。
    「エースおめェ……どこほっつき歩いてた」
     低い声が脳内を揺さぶるように響き、ハッと正気に戻る。
     エースはすぐに飛び上がるように花束を隠して、真っ赤な顔で白ひげを睨み付けた。
    「あ、あんたにゃ関係ねェだろ……!」
    「つめてェ野郎だ。おれァ、おめェと飲むのを楽しみに待ってたんだがな」
     白ひげの言葉に、エースの眉根が切なげに寄る。尊敬する男からそんな嬉しいことを言われたのだ。つい泣きそうになる顔をぐっと歪ませて、エースはまるで歩み寄るのが恥ずかしい子どものように、じりじりと後退った。
    「ぅおあっ!」
    「なに逃げようとしてんだ。猫でも拾ってきたんじゃねェだろうな」
     背後に回った手がベルトを摘まんで、エースの体ごとすんなりと持ち上げる。エースが反射的に腕をばたつかせると、隠していた花束が露わになった。
    「……?なんだ、こいつァ」
     白ひげが意外そうに片眉を上げる。
     図らずも、オヤジに突き出すような形になってしまった花束越しにその表情を見据え、エースの顔はますます赤くなった。
    「……っ、花だ!」
    「見りゃ分かる。食いもんだと思って買ってきたのか?」
     白ひげの返事に、エースはかっと目を見開き──
    「バカか!あんたのために買ってきたんだよ……っ!」
     と、怒ったような声で叫ぶ。
    「……おれにか」
    「そうだ!た、誕生日だろうが……っ」
     半ばやけくそ気味に返事をして、エースは花束をぐっと突き付ける。
     白いひげに、赤色がまぶしい。やっぱり似合うじゃねぇか、と頭の隅で思いながら、エースは怒りやら緊張やらで熱く火照った顔を歪ませ、白ひげを睨み付けた。
    「グラララ……ナスタチウムか。なかなか粋じゃねェか」
     瞳を細めながら、白ひげが花束を手に取る。
     すっと告げられた聞き慣れない言葉に、エースは首を傾げた。
    「……な、なす……?」
    「なんだ、知らねェで買ったのか?おれの誕生花ってやつだ、アホンダラ。ったく、ませたガキじゃねェかと思ったが……」
     白ひげはニッと笑って、花束から一輪、とりわけ鮮やかな赤色をつまみ抜いた。そのまま太い指先で器用に根元を細め、エースの耳上あたりの髪に差し込む。
    「……おめェはセンスがいい。今日一日付けとけよ」
     ごん、と指で頭を小突かれ、エースは数度、瞬きをする。見上げた白ひげは、今までに見たことのない男の表情を浮かべていた。
    「似合うじゃねェか、エース」
     低く囁くような呟きは、これまた聞いたことのないやさしい響き。エースの驚いた顔が、飾られた花と同じ色にじわじわと染まっていく様を眺めながら——白ひげは「グラララ……!」と声高に笑った。
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