Twillight Zone シャワーカーテンの隙間から手が出ていた。 曇らされたガラス窓越しに見るように、副次的な視界に映る青白い手だ。
ラインハルトは驚かなかった。 入浴を終えてふと顔を上げ、そんな光景に直面した人にしては珍しく、ただ先ほどまで肌に触れていた暖かい水にまだ浸かっているような感覚で、彼は突然現れた手を眺めていた。
手首から続く輪郭を視線で追うと、カーテンの後ろに立つシルエットが目に入った。 ぼろぼろのローブを着たような人影だ。 手だけが浮いているのでなければ、この後ろに人が立っていると考えるのが妥当だろう。 しかし、ラインハルトが知っている者の中に、彼が入浴している浴室に侵入してくるほど気安い者がいるかと問われれば、"見当がつかない"としか答えられない。 何の気配も出さずにそんなことが可能な人ならなおさらだ。
機械的にそんなことを考えている最中も、常識はどこか遠く離れていた。 とにかく、まだ青白い手はさっきの姿のまま目の前にあったから。
ふと、その手のひらの上で怪光が光る。 金属質に反射した光だった。 妙に見覚えがあると思いながら、ラインハルトは数年前に失くしたものを思い出した。 同じようなところについた傷まで似ているのは、もしかしたら.......。
ラインハルトは風呂上がりのぼんやりとした気分に包まれたまま、その瞬間、真っ先に頭に浮かんだイメージに声をかけた。
"父さん？"
その音を作る唇の動きはぎこちなかった。 しかし、考えて言ったのではなく、言葉が完全に発せられた後に耳で聞いたように、一拍遅れてラインハルトは自分の言葉を理解した。 純粋な驚きの痕跡がその顔に浮かぶ。
ラインハルトの父はラインハルトが生まれる前に亡くなった。 母親も、ラインハルトが乳飲み子だった頃に亡くなったと聞いている。 単にそう呼ぶ人がいなかっただけで、大人になってから今まで、彼が父親という言葉を口にしたことは数えるほどしかない。
さて、なぜ今更その言葉を思い出したのかはさておき、ラインハルトの言葉にシャワーカーテンの向こうの影が見せた反応は、ただ揺れるだけだった。 肯定も否定もせず、いつまでも手を伸ばしたまま、カーテン越しにシルエットが揺れる。 答えを待つべきか悩んでいたラインハルトは、ふと、湿気を含んだ空気の中で最も無防備に立っている自分の姿が滑稽だと思った。 何故、裸身で正体不明の影と半透明の幕を挟んで対峙することになったのだろうか。 もしかして入浴中に眠ってしまったのだろうか。 それとも、長時間の高温にさらされ、リラックスした体で頭まで緩んで、熱い幻想を見ているのだろうか。 いずれにしても滑稽なことだった。
いずれにせよ、ラインハルトはこの怪奇現象に興味を持ち、このまま無駄な時間を過ごし、その間に冷たくなった浴室内の空気が裸体に触れる先天的な感触に我に返るといった虚無的な結末を与えるのは無意味だと感じた。 そこで彼は影の贈り物に手を伸ばした。 物を触るとき、指先に触れる温度は冷たかったが、彼を目覚めさせなかったようだ。 まだそこに存在していた血なまぐさい真っ白な右手は、しばらくしてカーテンの隙間からそそくさと抜け出した。
カーテンの向こうから視線を感じながら、ラインハルトは渡されたものを覗き込む。 きっと屋根裏に置いた箱を開ける鍵だったのだろう。 道路のシルエットを見上げると、謎の訪問者は目的を果たしたように手を離した。 シャワーカーテンの隙間をすり抜ける青白い手の動きは、非現実的なほど現実味を帯びていた。
そのまま振り返ってゆっくりと歩き出した影は、浴室から「出て行った」。 来た時と同じように扉の開閉音一つなく消えた人影が消えた場所を見つめながら、ラインハルトは心の中で感謝と別れを唱えた。
今度会ったら、どこであれを見つけたかくらいは聞いておかなければならないと彼は思った。