シュトロンベルクの黄金の城ある日、少年の友人が泣いていた。目の下がくまのある少女は、飼っていた犬が死んだと言った。眠っているのかと思ったら、起きなかったそうで、悲しくて眠れなかったのかと尋ねると、少女は首を横に振った。少女が秘密を囁くように耳元に吹き込んだ言葉はこれだった。「怖い。眠りに落ちたら、もう二度と起きられないかもしれないから」
その夜、ベッドに横たわった少年は少女の言葉を思い返した。眠ったまま二度と目が覚めないなら、あの人はどこをさまようのだろう、もしかしたら永遠に夢の中に閉じ込められてしまうのかもしれない。
そんなことを考えながら眠りについた少年は、いつの間にか再びその城の中にいた。これは少年の夢だ。四方を眩しい黄金色に囲まれた大きな城をさまよう夢。まるで子供の頃、双子の兄と一緒に読んだ童話に出てくる城のようだ。少年は体を起こし、広い廊下を歩き始めた。きっと前回も前々回もここで目を覚ますが、通り過ぎる風景は毎回違う。城そのものが生きているかのように成長しているのだろうか。
目的地もわからないまま歩いていると、少年はいつの間にか広い部屋に到着している。そこには玉座があり、そこにはある男が座っている。初めてその男を見た日、少年はその場に立ち尽くすほど驚いた。 その男が少年の双子の兄にそっくりだったからだ。
長い金髪に、太陽のように輝く金色の瞳。双子の兄が大人になったらこんな風になるんだろうな、そう思わせる光景だった。はみ出た二本の髪の毛まで似ていた。
少年が動けない間に、彼が玉座から体を起こし、少年に近づいてきた。柔らかな曲線を描く優雅な動きが呼び起こすのは、なぜか恐怖だった。足に力が抜けて逃げ出したくても逃げられない少年の前で、彼は身を乗り出して手を差し出した。
思わず少年がその手を握ると、彼は少年を起こした。大きな手は見た目よりもゆったりとしていて、手に込められた力は力強くも慈愛に満ちていた。
それまで笑顔のままだった男はゆっくりと振り返り、長い金髪をなびかせながら自分の玉座に戻った。少年はその男を恐れながらも、なぜか彼の後ろ姿から目が離せなかった。席に座り、長い足を組んだ男がふと口を開いた。
「卿、こっちへ来い」
声が金色のホールの壁にぶつかり散る頃、少年は彼が自分を呼んでいることに気づいた。 震える足で赤い絨毯の上を進み、階段の下に立つと、男はもう一度少年を呼んだ。やがて玉座の三、四段下まで登った少年を見た男は、その場に釘付けになったように立っている姿を見て、もう何も言わなかった。 その口はただ慈愛に満ちた笑みを浮かべるだけだった。
それ以来、少年の居場所はそこだった。眠りにつくたびに、少年はこの城の中にいて、どこへ続くかわからない廊下を歩いてここに来た。 そしてできるだけ男に近づき、声をかける。
特別な話をしたわけではない。少年は男の名前すら聞かなかったし、男もそうしなかった。 それでも少年はある種の安らぎを感じた。 ただ、少年がこの男と黄金の城に感じる奇妙な郷愁が、双子の兄と過ごした日々を思い出させるからかもしれない。 そして、そういえば、名前などの記号がなくても、男は少年についてもっと多くのことを感じているようだった。不思議なことだった。
少年は日を追うごとに、自分が夢の中で妙におしゃべりになっていると思っていた。 彼がしてくれることは、少年の独り言を聞きながら、時々うなずいたり、感嘆の声を発することだけなのに。 それを知りつつも、男の行動が無関心から来ているとは到底思えなかった。 その夜もそうだった。
ふと少年の脳裏に、この前来た時に彼と話していた影が浮かんだ。「あの影は今日はいないんですか？」
突然の質問に男は少し目を見開く。「影？ ...... あぁ、カールのことか。 そうだな、しばらく姿を見せなかった」
まだ終わってない対局があるんだけどね。 そう言って瞳を丸くした彼の視線の先を追うと、器物があちこち移動したチェス盤が少年の目に入った。 彼は自分の側に置かれたキングを手に取り、いじくり回しながら元の位置に戻した。
その姿を見て、少年は夢中になって、ずっと考えていた言葉を口にした。
「ここで死んだら、僕はどうなりますか？」
言いながら、これは子供たちが大人によくする困った質問の一つだと少年自身も感じていた。口を止めるのが間に合わなかったことを後悔しようとした瞬間、金色の視線が少年に正面から注がれた。 その中には、いかなる種類の戸惑いや煩わしさもなかった。やがて口を開いた彼の声は、おとぎ話を作り上げる大人のものではなく、しっかりと決まった答えを返す法則のそれだった。
「未来永劫愛してやるよ、この城の中で」
そして彼はここの王のように笑った。継ぎ目のない滑らかな城の壁面は、初めて見た瞬間のまま、彼の金髪のように眩しく輝いていた。少年は閉ざされた口からどんな言葉を吐き出したかったのか覚えていない。
再び目を覚ますと、少年は昨夜寝転んだベッドにいた。 彼の双子の兄も、兄に似た男もいない異国の現実が少年を迎えた。