どしゃ降り激しい雨粒が前面ガラスをたたく。ヘッドライトが照らす先は、鼻先以外は何も見えないほどに夜路は暗かった。ちょっとこの小さな光を消してしまったら、もしかすると少し遠くまで見えるかもしれない、と思ったが、隣でつぶやく独り言が故意にそうしているのか疑わしいほどくだらなかったにもかかわらず、友人からその言葉の愚かさを指摘する言葉は戻ってこない。居眠りしているのか？それとも彼らが乗っている四駆が雨の道路で滑ってどこかに突っ込んで転がることが彼にとっては大問題でないか。それとももうどちらも面倒くさくなったのか……。
ひどいことに、自分の気が向かないからといって唯一の友である男をこんなに冷遇するなんて。私を子どもだと思っているに違いない、そうする自分自身も面白そうに見えることに。そうではないか、ハイドリヒ？男は普段自分の言動などは全く考慮せず不平のような言葉を延々と並べた。それでもずっとその表情は笑っているままで変わらない。不満があるようには全く見えなかった。
もともと大した意図がある言葉でもなかったために答えが戻らないのであればそれで終わりだった。車が方向を曲げると後部座席に座った彼らの体も揺れる。崩れそうな友の肩に手を伸ばし支えてやりながら余眼で覘いた横顔は静かだった。彼らが初めて出会った日の無表情よりも、心の奥から湧き上がる満足の微笑みが口の端を上げたような顔だった、そう言いたいならば男は通り過ぎた自己賛歌を口に含むのだろうか。
さっきから雨音に埋もれてよく聞こえなかった車ラジオの音は今や周波数の外の騒音に過ぎなかった。どこに音楽があるのかはわからないがどうにかなったが、変なリズムを口ずさむ男はかなり楽しそうに見えた。雨はやむとも知らず、彼らは案内標識一つない場所をひたすら進んだ。もしかしたら既に通り過ぎた場所をぐるぐる回っているか、逆走しているのかもしれない。左右がったしかめた道路が明らかにどこかに着くだろうと男は考えた。その瞬間、待っているかのように車が停まる。
車から降りた男は車の周りを半周して歩いた。運転席には最初から誰もいなかった。上下左右を区別できない暗闇の上を赤黒い血が鮮明に痕を残しながら通った。男が足を踏み出すたびに靴の裏からしっかりした血が赤い糸のように続いていき、途切れた。友が座った側のドアを開け口を合わせた男は上を見上げた。無数の星がまさに頭上まで降りてきていた。あんなにも多い失敗の痕跡をまだ眩しいと思って鑑賞し続ける自分の愚かさにがっかりしながら、男は再び友人を見下ろした。ラインハルト・ハイドリヒの形を備えていたものはもはや溶けていた。
男はその光景を最後まで見守った。男がさっきハイドリヒと呼んでいたものは最後の瞬間には左側のドアに秘められていた血のプールに過ぎなかった。流れ落ちた血は男の足首をたどって左の胸の傷口に入っていった。少し後には友人も幻覚も、そして男の血まで痕跡もなかった。胸の傷口はきれいに癒えて去っていった場所から男は暗闇の中で一人立っていた。
自傷なんてしても何の意味もないけどな。男は嘲笑いながらつぶやいた。皮肉な言葉が、皮肉が向かう対象とはまだ一つしかない空っぽの世の中で反響する。一人では死ぬこともできなくて、いや、痛みさえもないのに。無駄な暴れん坊が終わると、残ったものは他ならぬ本能だった。唯一に残されたもの、かすかに色あせた嘲笑を含んだ男は持ち上げた手の中に光を照らした。今回の世界では、始まりの光だった。