無題『親族全員死んでっからさあ、なんかあった時の連絡先オマエにしていい?』
耳の奥で、軽い声がゆらゆらと鳴いている。
気圧変化により閉じたままの耳管のせいで、ぼんやりとした音を捉えることしか出来なくなって久しい。実際には鼓膜を揺らしていないはずの低い声の方が、馬鹿みたいに鮮明に記憶と心を揺さぶっていた。離陸してから既に六時間は経過しているが、まだようやく中間地点といったところだ。到着までに長時間を要しはするものの、飛行機一本で行ける国に半間が滞在していた点は不幸中の幸いだった。
特に旅行の趣味の持ち合わせもないオレが、わざわざ長時間のフライトに耐え海外に出るのはこれで二度目だ。仕事ならまだしも、両方とも半間絡みなのだから辟易する。
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