「げ…最っ悪」
目の前のスープを覗き込んだアインは開口一番表情を歪めてそう呟いた。
「自分で頼んでおいてそれはないんじゃないか」
テーブルを挟み同じく食事を始めようとしていた了はアインの歪んだ表情を見てから視線をスープへと移す。そこにあるのはただの野菜がたっぷりと入った美味しそうなスープだ。
「野菜スープに死体が入ってるなんて思わねェだろ」
ぷすりとフォークで鶏肉を突き刺し眼前に突きつけながら更に表情を歪ませる。あーヤダヤダ!だの、うっぜ!だのと吐き捨てながらぷすりぷすりと全ての鶏肉を刺していく。
「鶏肉。…死体とか言うなよな…って何してる」
「やる。食え。クッソ不味いぞォ」
「子供か!?好き嫌いするなよ!」
「やーだね!好き嫌いせず食えよ死体」
「してるのはお前だろ!だからその言い方止めろ!」
ギャイギャイと言い合いながらも結局全ての鶏肉が了の皿へと移されていき、満足気に笑ったアインは漸くスープを口にする。
「味うっす」
「お前は文句しか言わないな…」
「んな褒めンなよ」
「褒めてない」
空腹だと言うのに食事前に体力を使わされ了は盛大にため息を零した。まともな会話をしようとするだけ無駄かと皿に移された鶏肉を渋々口にする。その様子を見つめるアインの表情は歪んだままだ。
「…よく死体なんか食えるよなアンタら」
「だからその言い方…はあ…魚の方が好きだけど別に嫌いってわけじゃあないからな」
「げぇ〜…」
ぷすり、もう一欠片鶏肉を口へと運ぶ。決して不味くは無い。むしろ美味しい方だろう。
「美味しい」
「美味くねェだろ死体なんて。食ってるとこ見せんな」
「もう目閉じて食ってろ」
「アンタ目ェ閉じて食えんのかよ」
ぷすり、ぷすり。
周りの目も気にすることなく騒がしく食事を進める。これだけ騒がしくしていれば時間もかかってしまうもので、賑わっていた室内はチラホラと客が居るばかりだ。
「その豪快な性格で肉が苦手とはな」
「だってクソ不味いだろ死体なんて」
「そればっかりだな…」
「食感も味も色も何もかも嫌いだ。死体なんて。食えたもんじゃねェ」
「そんなものを人に寄越そうとするな」
「あんなの食えるなんてアンタの方が悪魔なんじゃねぇのか?バアル・ゼブルかよ」
「…もうお前とは一緒に飯は食わない。うるさい」
「ア!?誰が死体の処理すんだよ!?」
腹も膨れて更に饒舌になる。賑やかに2人並んで歩きながら部屋へと戻っていくことだろう。