夜に落ちた二輪の花雪が荒々しく降る午後陸時。二輪の花が小さな蕾を護るため、憐れに落ちた。どんな寒さにも耐え、どんな暗闇も耐えた強く美しい紅い椿の華。どんなに強く咲いていたとしても、落ちる時は呆気ない。咲き誇っていた時の強さとはまた違う、抗うことを諦めた弱さもまた輝いている。伸びた枝を手折られる度に、真っ赤な花弁が辺りに散る。護られた蕾達は、ただそれを眺めることしか出来なかった。
ーただ、目の前で父と母が見たことも無い化け物の手でブチブチと千切られ、肉塊へと化する所を唖然と眺めることしか、僕には出来なかった。助けを呼ぼうにも声がでない、逃げたくても足が震えて動かない。隣で泣き叫ぶ妹の声を聞きながら、血に染った雪の中でぐちゃぐちゃと音を立てる物体を見ていた。きっとこのまま僕達も化け物に殺される。肉塊を千切り終え、満足した様子の化け物は、血だらけの口をまた血だらけの手で拭きながらゆっくりとこっちを向いた。
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