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    sushiwoyokose

    @sushiwoyokose

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    sushiwoyokose

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    デストルにちょっと嫉妬してるアのアユ+可愛いデスちゃん

    羨望の雷肉の焼ける香ばしい香りに、華やかなハーブの匂いが混ざっている。甘さが覗いているのは野菜を一緒に放り込んでいるからだろうか。複雑だがすべてが美味そうな匂いは、まさしく馳走のものに他ならない。
    「俺の手伝いは?」
    「仕上げのひと焦がしに雷撃を少々、それ以外は座っていたまえ」
    「……皿を出すとか」
    「ふ、じっとしているのがとくと不得手だね。なんにもしない悦楽を愉しめばいいんだ」
    「そうは言ってもな……」
    互いの自宅に遠慮なく泊まり込む仲である。勝手知ったる友の家に肩身の狭さを感じることは本来ないのだが、彼一人をあくせく働かせていると思うとじっと座っている気になれなかった。元気に動いているが、死に瀕した大怪我が完治して間もない言うなれば病み上がりの人間なのである。本音を言えば一挙一動に手を添えてやりたい気持ちだが、ユリウスはこれをけたけたと笑い、過保護と一蹴するばかりだった。
    (もう少し甘えてくれてもいいものを)
    座っていろとこちらを制する視線は、優しくも鋭いものだ。ここで割入ればせっかく上機嫌に鼻歌を鳴らす低音が黙ってしまうだろう。諦めてリビングのソファへ沈むと、「それでいい」と言わんばかりの笑顔を押し込まれた。
    ソファから見える景色は、独り暮らしにしてはやや広い台所である。傷を庇う癖が抜けていないのか、左足にやや重心を寄せている親友の周りには数多の触手が蠢いていた。オーブンで火加減を眺める一匹、せっせと鍋をかき混ぜているのが二匹。包丁を齧って香味野菜をたたたと刻んでいるのが一匹に、調味料を運んでいるのが二、三匹。すっかり従順になった彼らは文字通りユリウスの「手足」だ。頭で思うことが直接指示になるらしく、親友は細長い異形を助手と呼んで便利がっている。星の力を出しっぱなしにしておくことで、身体に何か影響がなければいいのだが。
    (いいや。本当は……心配なんかじゃないんだ。これはきっと、嫉妬の類で)
    人知れず呆れた笑いを零す。出会ったばかりの年若い頃から、なんでも一人でこなしてしまう友だった。その力量を信じるが故に、彼を一人にしてしまったのは俺の罪であり、咎である。だからこそ傍にいて力になろうと思うのに、彼の身体には星の力まで加わる始末だ。支えようと伸ばした手の行き場はまるでない。できることと言えば、せめてもと思って見つめることだけ。
    友に呼ばれ、友を手伝い、友に褒められるかの異形のことが心底羨ましい、なんて。ユリウスに言えば、彼はどんな顔をするのだろうか。
    「~?」
    「……、なんだ。一匹不真面目なのがいるな」
    獣と人とを比べるなどと、どうかしている。祖国の空に似た薄暗い気持ちを緩やかに頭を振って逃がしていると、不意に一匹触手が視界に入り込んできた。首を傾げたその一匹は、働く他の触手と離れてじっと俺を見つめている。手持無沙汰に頭の先をつついてみれば、触手は白い歯をにかっと丸出しにして笑みのようなものを浮かべ、そのまま転がるようにして俺の膝上へと収まってしまった。
    「おい、こら」
    「~♪」
    「あっちは忙しそうだぞ。……お前は手伝わなくていいのか?」
    「~? ~!」
    「なんだなんだ、ちっともわからん」
    「~♪♪」
    困惑する俺をよそに、触手は呑気に笑いながら人の上にとぐろを巻いてくつろいでいる。一体何のつもりなのだろう。助けを求めるようにふと台所を見つめれば、菜箸で鍋をつつく友が喉を鳴らして笑っていた。あれは悪戯を企て、それが成功している顔である。
    「なんなんだ、これ?」
    「さぁ。こちらにいるのはデストルクティオ、とだけ言っておこう」
    「……、お前もちっともわからんな」
    「ふふふっ、だが悪戯を抱えていることはわかっている口ぶりだ。じっとしているのが苦手な君にサービスだよ、完成まで謎解きを愉しみたまえ」
    「謎解きって」
    ユリウスはひらりと踵を返して、そのまま調理へ戻ってしまう。膝に乗った異形を見下ろせば、異形もまた俺を見つめて「ぎ」と鳴き声のような、うめき声のような、よくわからない音を発して牙を覗かせた。
    「お前だってデストルクティオだろう?」
    「……」
    異形は笑顔のようなものを浮かべたままゆるやかに身体を揺らしている。どうも、機嫌がいいようだ。こちらの顔は訝し気に皺を深くするばかりだというのに、なんだか腹立たしくなってくる。
    「違うのか?」
    「冬だというのに温いねぇ」
    「……?」
    「ひとりごとさ」
    黙りこくってしまった触手に代わり、遠くから声が飛んでくる。温いとはなんだと言おうとして、ふと己の手が異形――デストルクティオの身体に触れていることに気が付いた。魔力を溜め込んだ俺の体温は常日頃から高く、外気温に晒されたところでひんやりと冷めることがほとんどない。部屋の中に居る今も当然、肌には人より高い温もりが宿っている。
    (……、ぬくい?)
    はたと、考える。今、俺の手は赤黒い異形の身体に添えられていて、友には触れていないのだ。ユリウスは、俺の体温の高さを当然知っている。憶測でものを言うことだってできるはできるが、それにしては話題が唐突だ。彼は暇つぶしに謎解きを寄越して、ならば今の囁きは答えに繋がる手がかりと考えるべきである。
    「……」
    そうっと。竜の肌のような、硬い身体を撫でてみる。星は友に宿り、彼らは一心同体となった。自我が芽生え始めてきた異形たちは自らの意思で動くことが増えたというが、恐らくは意思を「友のもの」にすり替えて動かすことも、また可能なのだろう。かつて星が、友の憎悪を増大させて冷徹な報復者を引きずり出したように。
    つまりはこれは、ユリウスなのだ。
    「ふふ、別にのけものにしようと思って放っているわけではないんだよ親友殿? あくまで今日、私は君をもてなそうと思って腕を振るっているからね。主役にあまり手伝われてしまっては本末転倒というわけさ。あんまりしょげてくれるなよ」
    「ポーカーフェイスというのは何をしたら磨けるものなんだ?」
    「さぁ。私にカードで勝てるようになれば身に付くんじゃないかい。……あいでっ、こら、痺れさせるのはやめ……っ、力が強いな君は……!」
    口喧嘩で彼に適う術はない。なればと異形に極抑えた電気を送ると、向こうから色気のない悲鳴が飛んでくる。逃げようとする身体をひっつかんで戻すと、鋭い牙がシャッとこちらを威嚇した。だが、刺々しい身体が俺を突き飛ばすことも、牙が肌を食い破ることもない。やはりこれは友なのだ。どうとでもできるが、どうにもしないでいてくれる。どれだけ力が強かろうと、星の獣に素手で勝てるはずがないのだから。
    (……ああ、そうか。すっかり甘えられているんだな)
    ふつふつと沸いていた曇天は、晴天といかずとも薄くなる。友の苦しみに寄り添いきれなかった後悔は消えない。よって、異形に対する羨望もまた消えることはないだろう。だが、そんな俺の我儘を受け入れてユリウスはここで息をしている。それを超える特別があるだろうか。それを超える親愛があるだろうか。
    「なぁ、やっぱり手伝うよ。座っているんじゃ気が済まない」
    「話を聞いていたのかね」
    「だからこそだ。隣に居たい。だめだろうか」
    「勝手な奴だな」
    「かわらないだろ。お前のわかりづらさと同じで」
    異形を小脇に抱えて立ち上がり、足早に友の傍へ歩み寄る。ひしめく触手がいくらか近寄る邪魔をしたが、やがてユリウスの手が伸び俺の掌に何かを乗せていった。見れば、銀色の小さな鍵が乗っている。
    「食器棚の鍵だ。一番いい銀食器を並べておいてくれ。蓋の付いたやつ、わかるね?」
    「ああ、俺が成人の祝いに背伸びして買ったあれだろう?」
    「ふっ、記憶力のいいことで」
    小言を背にしてリビングへ立ち戻る。音を立てて鍵をもてあそびながら、目当ての懐かしい箱を探しに向かった。
    昔の贈り物をわざわざ鍵の付いた場所へ仕舞いこんでいることだって愛、と。俺がハッと気づくのは、馳走が完成してからのことである。
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