幕間 エランさんにはいつも助けられてばかりだ。
はじめて会ったときも、追試のときも、みんなで劇をしたときも。最近だって、テスト勉強に付き合ってもらっている。
だから、私もエランさんの助けになりたかった。
「エランさんは、なにか困っていることはありませんか?」
「困っていること?」
「はい! いつも助けていただいてばかりなので、私もエランさんの助けになれたらと思ったんですけど……」
でも、エランさんが困ることなんてあるのだろうか。勉強だってできるし、私なんかよりも頭の回転はずっと速い。きっと他のことだってなんでもこなしてしまう。
いまになって自分の言っていることが的外れじゃないか悩んでいると、あるよ、と声が聞こえた。
「困っていること、あるよ。それも毎日」
「ま、毎日ですか?」
意外な回答に驚いて、まぬけな声が漏れる。
エランさんは一度頷いてから、話を続けた。
「よく、うなされるんだ」
「うなされ……? 怖い夢とか、見ているんでしょうか」
「夢の内容は覚えていないけれど、一度だけうなされなかった日があるんだ」
「そうなんですか?」
「うん。きみと一緒に寝た日なんだけど」
「私と……」
エランさんと一緒に寝た日。
その日のことを思い出して、顔がボンッと一瞬で熱くなる。
一緒に寝たのは、エランさんと結ばれたあの日だけだ。
「ええと、あの……」
「きみと一緒だとよく眠れるらしいんだ。だから、また泊まりに来てほしい」
「そ、それは……その……そういう……」
これは、二回目のお誘いなのだろうか。頭の中でこの間のことがグルグルと回ってのぼせそうになる。
そんな私の様子が面白かったのか、エランさんがくすりと笑った。
「そういうつもりでも、そうでなくても、どちらでもいいよ」
「……エランさんは、どちらでしょうか」
「きみがいいのなら、そういうつもりにしておく」
「……な、なんだか……ずるい、です」
「先にそういう話に持っていったのは、きみだけど」
「うっ……」
たしかに、勝手にそういうことだと受け取ったのは私の方で、なにも言い返せなかった。
そのまま次のお泊りをいつにするか決めて、カレンダーに予定を追加した。カレンダーを飾るいつもと違う色のハートから、目が離せなかった。
この日がきっと二回目になる。
そう思ったら、緊張で心臓が止まりそうだった。