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    Pon_tanu_Pon_

    @Pon_tanu_Pon_

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    花占いするだけの4ス🌻

    花占い 夕方。中庭の階段。
     決闘委員会での仕事も終わり寮へと戻る途中、ぶつぶつと呟く声が耳に入った。よく知った声に、それがスレッタ・マーキュリーの声だと脳が認識する。姿は見えないが、おそらくこの壁の向こうにいるのだろう。階段を下り、いつもなら気にすることのない壁の向こうを覗き込む。やはりそこには彼女がいて、両手を握りしめながらいつかのようになにか困った様子で階段に座り込んでいた。
    「また困ってる?」
    「えっ……エランさん!?」
     声をかければ、俯いていた顔がパッとこちらを向いて彼女が立ち上がる。夕日に照らされているせいだろうか。彼女の顔がいつもより赤く見える。
    「どどっ、ど、どうしてここに……!」
    「委員会の帰りだよ。ここを通ったらきみの声が聞こえたんだけど……」
     彼女に近付くと、握りしめられた両手からはなにか細長いものが飛び出していることに気が付いた。「それは」と聞けば、慌てた様子で両手をサッと背中の後ろへと隠されてしまった。
    「なにを隠したの?」
    「え、ええと……」
     視線を空色へと向ければ気まずそうに逸らされた。もごもごと動いた口は「あの」とか「その」とか繰り返すだけで、それ以外の言葉は紡がれない。ぼくには知られたくないことなのか。それなら適当に誤魔化せばいいのにと思うけれど、彼女がそこまで器用な人間でないことは知っている。
    「きみは本当にわかりやすいね」
    「えっ」
    「それで、いま手に持っているものはなに? ぼくには教えられないこと?」
    「そ、そんなことはっ」
    「じゃあ、教えてくれる?」
     教えられないというなら引くところだけれど、そういうわけでもないらしい。
     困っているのは、おそらく手に持っているものが原因なのだろう。
    「一人で悩んでいるより、話した方が解決できるかもしれないよ」
     そう告げれば、彼女は背中に隠していた両手をおずおずと出してきた。手に持っていたものは、緑色をした細長い——
    「……花?」
     それが植物だとわかったのは、一枚だけ白い花びらがついていたからだった。なぜ一枚だけ……と思ったが、よく見れば彼女の足下には元々付いていたであろう花がいくつも散っていた。
    「花で、なにかしてたの?」
    「……これは、占いなんです」
    「占い?」
     ぼくの問いに「はい」と返事をした彼女は、ほとんど茎だけとなった花へと視線を移した。「花占いっていうんですけど、例えば、エラ……」と口に出したところで彼女は固まってしまった。
    「スレッタ・マーキュリー?」
    「あっ、エ、エアリアル! エアリアルです!!」
    「そう」
     落ち着かない様子で「エアリアルが、」と彼女は言葉を続けた。
     彼女曰く、自分のことが「好き」なのか「嫌い」なのか知りたい相手のことを考えながら花を千切り、最後に千切った一枚を相手の気持ちだと思うことにする、という占いらしい。
     占いのやり方はわかったが、どうして一枚だけ花びらを残しているのかは謎のままだった。
    「これは千切らないの?」
    「……わたしには、千切れないんです」
     丸い眉が困ったように下げられる。「嫌いになっちゃうので」と彼女は続けた。
    「占いだから、結局は気持ちの問題なんですけど……でも、嫌いで終わっちゃのがなんとなくイヤで……」
    「……じゃあ」
    「えっ」
     残された薄い花びらを摘んで、教えてもらった通り「好き」と口に出して、千切る。頭の中には占いたい相手を思い浮かべながら。
     花は簡単に千切れて、指を離せばはらはらと地面へ落ちていった。
    「エランさん!?」
    「これできみが最後に千切ったのは好きで終われたよ」
    「えっ、あっ、たしかに……?」
     ぱちくりと空色の瞳が瞬く。「それでいいんでしょうか」と笑う彼女の表情は、さっきよりも晴れているように見えた。
     彼女の悩み事は解決したようだが、ぼくには気になることがひとつ残っていた。
    「ところで、きみは誰のことを考えながら占ってたの?」
    「えっ」
    「エアリアルではないよね」
     気になっていたのは、彼女が誰に対して花占いをしていたか。例えば、と言ってたからエアリアルではないのだろう。
     声をかけたときにやけに驚いていたこと、持っていた花を隠そうとしたこと、エアリアルの前に言おうとしていた名前。彼女が占っていたのは自分ではないのだろうか。もし違っていたとしても、そうであったらいいのにと考えてしまう。
    「ぼくはさっき、きみのことを考えたよ」
    「へっ!? なななななっ、なんで、わたしをっ」
    「ぼくが知りたいのはきみの気持ちだから」
     顔を真っ赤にした彼女に一歩近付く。これはきっと夕日の色ではない。
    「きみも教えてほしい」と告げれば、彼女の口からは望んでいた名前が小さく呟かれた。
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