ワンライ演目『指輪』「類がそんなものを食べているなんて珍しいな。」
不思議に思い、隣の彼に問いかける。この彼──神代類が、ラムネ以外の何かを持っているのを見たことがなかったのだ。
彼が食べていたのはリング状のスナック菓子。幼い頃、誰もが指に通したであろうもの。それを類は、一人でむしゃむしゃと食べていた。「結構美味しいね、これ」手についた粉を見つめながら言う。そして、オレの方をゆっくりと見やる。なんだか期待がこもっているように思えて、あぁ、と遅れて理解する。
「……そんな目で見なくとも、ウエットティッシュが欲しい事くらいわかる。ほれ、もう少しこっちに寄れ」
手の粉を拭きたいのだろうと推測し、類の腕を掴んで丁寧に拭いていく。布越しに触れる類の手のひらは、機械いじりが趣味だからか傷が目立っていた。この手がオレたちのショーの演出を作り上げているのだなぁと思うと、なんだか頼りがいのあるものに見えてくる。オレはそんな類の手が好きだった。
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