遭難した理由の一つ?登場人物
①イマーガちゃんことイマガチーナメント・ブルツィオ。『黒百合様』という通称もある。害悪。悪魔みたいなナマモノ。機械が好き。一人称:ボク、二人称キミ。普段は誰もいない世界を構築してそこに引きこもっている。シマにナガサレてた。
②ミシェルさんことミシェル・エミール・フェヴァン。幽霊執事。今回滅茶苦茶アウェイで冷や汗止まらん。人間が好き。一人称:わたくしor私、二人称あなた(漢字表記アリ)。あらゆる世界に侵入することができる時空の旅人。シマにあえてナガサレた。今回ジークさんに説得されて渋々イマーガちゃんの住居に繋がるパスを繋いだ。
③ジークさんことジークリット=F=マモン。強欲の悪魔。イマーガちゃんと意思疎通ができている稀有な人。肩に乗ってる毛玉は『スーちゃん/スパービア』という名前が付いた魔王(のなりそこない)。錬金術が好き。一人称僕、二人称君orあなた(漢字表記アリ)。シマにはナガサレてなくて、後日談を聞いていて興味が湧いたのでイマーガちゃんの世界に来た。
★
果ても無く、何処までも続くこげ茶色の台地、灰色がかった青空。空の箱のような、音の無い世界。
その一角に、様々な状態の機械の山が堆く積もっている。その近くには子供のような見た目の青髪の悪魔と、水色の毛玉のような生き物を肩に乗せている白髪の悪魔。そして、燕尾服をまとった長い髪の男がそこにいた。
白髪の悪魔は燕尾服の男から話を聞いて、カップをソーサーの上に音も立てずに重ねて、笑う。
「ははは、へえ、無人島に遭難! それも夢の中で! また面白い体験をしたんだね、黒百合様と君たちは。」
「笑いごとではありませんよお。わたくしは誰かさんが神隠しをやらかしてシマの平和の均衡が乱れないか、誰かさんの堪忍袋の緒が切れて無人島が爆破されないかとヒヤヒヤしていたのですからね?」
「まあまあ。結果、何事も無くて良かったじゃあないか。一緒に遭難してしまった人たちも全員無事脱出できたみたいだし。いやあ、暑い場所で良かったね?」
「本当ですよ……イッセイさんとイマーガさんの無自覚にして意図的な魅了攻撃に冒険者の皆さんが侵されないためにお二人に防御魔法を張ったり、彼らの喜ぶ貢物を捧げたり……とにかく、皆さんに被害が及ばなくて何よりです。と、いうかですね、Monsieurマモン――いえジークさん、何故わたくしを此処に連れてこさせたのですか? できれば帰りたいのですが。」
「うん? それは勿論、僕一人では黒百合様のお住まいにお邪魔することはできないからだよ。君、あらゆる世界に侵入できる"鏡"を持ってるだろう。」
「まあ、ありますけども……まさか連れてこられた場所が此処だとは……勘弁してくださいよ。此処はわたくしにとっては敵の根城のようなものですよ。」
「ははは。悪魔と天使は相容れないものだからねえ。」
ぱちんと音を立てて、操作盤の蓋が閉じられる。
「天使は此処に入ったら焼き尽くされて死ぬけどね。」
先程まで目の前の巨大な機械を弄っていた青髪の悪魔は、そう呟いて振り返った。『リリー』、あるいは『イマガチーナメント』と呼ばれた悪魔の、その少女のようなあどけなさが残る顔が、魔力抵抗が高い上に性的嗜好の範疇外である筈の彼らに一瞬の酩酊を与える。
「キミたち、何しにこのボクの世界に来たの? さっきから煩いったらありゃしない。殺すよ。」
「それは失礼しました、黒百合様。我ら悪魔貴族の長たる傲慢卿が貴方様の身を案じていらしたので。それに、出来上がったばかりの論文を一番にお見せしたかったのに、スーちゃんを介してのご連絡がとれなかったもので……ところで、そちらの機械は?」
『ジーク』と呼ばれた白髪の悪魔は、背後の巨大な機械に視線を向ける。
その機械の大きさと言ったら、2.5メートルほどの棺桶を縦に置いたかのような大きさの代物だった。
「ああ、コレ。人間の脳波を読み取って外部から書き換えることができる装置だよ。」
「へえ……、凄いですね。」
「サラッと恐ろしい事を仰っているのですが、それでもイマガチーナメントさんにとっては『おもちゃ』なんですねえ……!」
「しかし、なんだってそんな代物を? 失礼ながら、黒百合様。生物に関することは専門外では……。」
「専門外だからってできないことは無いよ。ボクは天才だからね。まあでもこういうのはすぐ飽きるから、コイツは作りかけのままスクラップにする予定だったんだけど。」
「……『だったんだけど?』」
「誰かが未完成品であるこの装置を使って、不特定多数の生物を夢の中に引き摺りこんだのさ。」
「……すみません、読者の皆さんにもっとわかりやすいように説明をお願いして頂いても?」
「読者……?」
「メンドくさいな……。要はさ、怠惰卿が昔喚いてたやつを再現したやつなんだよね、コレ。人間は普段の生活で起きた出来事や、脳に蓄積したあらゆる情報を整理するために夢を見ると言うだろう。この装置はその夢に侵入し、書き換えることができるのさ。」
「つまり――淫魔や獏といった特定の生物でしかできないことを、誰でも再現できる装置、というわけですね。」
「それで何故怠惰卿がイマガチーナメントさんにお願いを――ああ、自分の能力を使うのが面倒だからか……。」
「で、そんな未完成品を動かしてしまった人がいるんですね。黒百合様が人間に害を成す存在であることは周知の事実ですが……しかしそれでも危ないのでは?」
「危ないかどうかはどうでもいいよ。人間がどうなろうが興味無いし。問題は未完成の物を勝手に動かしやがったこと。あんな中途半端なものを表に出すなんて信じられない。ボクすら対象にするなんて赦さん。どうせ使うなら完成品使えってんだ全く。」
(やっぱり害悪ですねえ、この人……人?)
「心中お察しします。しかし……具体的に何処が未完成なのでしょうか? 先程から見ている限り、完成しているように見えていたのですが……。」
「ああ、作業途中の箇所。この装置の重要な部分である、夢からの脱出方法が確立していなかったんだ。」
「おっと、大分恐ろしい話が出てきましたねえ! 最悪寝たきり状態になるところだったんですね、私たち!」
「キミ死んでるから夢見ないだろ。」
「それを言ったらおしまいなのですが。」
「なるほど……。あれ、でも夢から醒めることができないのでしたら、巻き込まれた人間たちはどうやって目覚めることができたのですか?」
「そうだね、夢から醒める方法は単純だけど非常に難しい。"夢を夢だと認識しないまま目的を達成すること"だ。」
「簡単では?」
「そうでもない。何故なら巻き込まれた人間たちは全員意識がハッキリしている。それなのに本来であれば使える物が使えないというのは違和感でしかないだろう。そうなると人間はまず、夢だと思い込む。そうなると一発でアウトだ。」
「大規模な魔法……使えませんでしたねえ。」
「確かに僕もPSIが使えなかったら違和感が凄いだろうな。認識しないということは分かりましたけれど、達成すべき目的とは?」
「今回は『無人島に遭難した』というシチュエーションだから、シマからの脱出だね。」
「なるほど。奇しくも彼らは、天然のまま醒めることができないかもしれない夢からの脱出が叶ったと。」
「勿論、ボクが作った未完成品が原因で無人島に遭難すると言う夢に入ってしまった人間はそう多くないかもしれない。それでもコレに巻き込まれた人間はいるってこと。あー腹立つ。」
「なんにせよ、めでたしめでたしで終わって良かったです。本当に。」
★
「――そういえば、装置を勝手に触った人って特定できたのですか?」
「ああ、アレ。そんなん一人しかいないに決まってるだろ。」
「そうですかね……割といるような気がいたしますが。」
「この世界は非公開のホームページのようなものだ。ボクがサーバーの管理人、傲慢卿がユーザーの管理人だとすると、キミはコンピュータやソフトウェアの仕組みを研究、調査するハッカー。だけどね、コンピュータネットワークに繋がれたシステムに不正に侵入したり、コンピュータシステムを破壊・改竄したりできるヤツが一人だけいるのさ。」
「それは一体……」
「――憤怒卿。」
「ああ~、あの人も困ったものだな……。」
「あの人、混沌を好みますからね……。」
\ワシじゃよ★/