干渉者SS願いはあれど
「私達って仲良しこよししてるらしいわよ」
「おや、それは良い事じゃないのかい?」
LK (ラインキーパー)としての任務中、彼岸とルキウスは一歩離れた場所で壁に寄りかかっている。
交渉係に高坂が現地の人々に対して会話してるのを邪魔にならぬようこうして離れているのだ。
「馬鹿言わないで、その理論で言ったら黒龍はどうなるのよ」
「あれは…例外中の例外だから」
ルキウスは苦笑いしながら話題に上がった人物を思い浮かべるが彼は少し真っ直ぐすぎるなと感想を抱く。
「でも、僕はみんなと仲良くしたいと思ってるとも!君を含めてね」
「……私は、情が出るタイプなのよ」
「うん、知ってる」
あっけらかんと即答するルキウスに彼岸はずるっと転びそうになったが踏ん張ってから隣の彼に向けてジトリと睨みつける。
少女の睨みなど可愛いものだとルキウスはにこやかな笑みを浮かべて少女を見つめ返す。
「あんたねぇ…!」
「ははっ、君がそういうタイプなのはLK全員知ってるよ!」
「──それで、君は僕が死んだら傷になってくれるのかい?」
スゥッと目を細めて笑うルキウスに彼岸は顔を顰める。
何気ない日常会話をしてる筈なのに、自然な流れで他人の死を考えさせようとしてくるのだ。
これがタチが悪いと言わずとしてなんて言うのだろうと彼岸は当たり前のように話すこの男は自分の返答を待ち侘びてるように目をキラキラさせている。
「───ノーコメント、此処で貴方を喜ばせるのは凄く癪だわ」
「そっか、それならいつか答えを聞かせてもらおうかな」
「この皇帝はよぉ……」
あっさりと身を引くルキウスに、彼岸は内心この男はきっと私が敢えて明かさなかった返答に気付いているのだろう、そして気付いた上で「敢えて」聞かない事を選んだのだ。
うんざりとした彼岸の様子にルキウスは花が咲くような笑顔を浮かべている。
「さて、高坂くんも戻ってきた事だし頑張ろっか!」
「自分で振って自分で切るなよ」
「いやぁ、ほら…僕だし?」
じゃあ行こうか、と前を行くルキウスに今回もどんな珍道中になるのやらと彼岸は何処か冷めた顔で仲間と合流する。
干渉者のそんな取るに足らない話。
獣と鬼
「Assault/攻撃干渉──豪閃!」
「Assault/攻撃干渉──Vermiglio Aurora!」
二色の赤が戦場を駆け抜ける、刀は鉄を切り裂き、剣は肉体を切り裂く。
やがて敵は全て地に伏して塵となり消えれば存在係数というエネルギーを残すのみだ。
それらを回収すればルキウスは共闘した相手、黒龍へ向き直る。
「君がいたお陰で助かったよ、ありがとう☆」
「ハッ、何がいて助かっただが。お前、わざとそうなるように誘導したな?」
黒龍は鼻で笑いつつも射抜くような視線をルキウスへと向けた、それに反して彼は笑みを崩さず彼を見つめ返す。
「おや、バレちゃったか。でも君は乗ってくれただろう?」
「乗ってくれただと?乗らせたの間違いだろうに」
「はは、でも君はこっちに来ると思ったさ。だってそっちの方が気持ちよかっただろう?」
刹那、ルキウスのチョーカーの布地に刃が食い込む。
薄皮一枚といった所で刀は止まり、静寂が身を包んだ。
「俺は決めつけられた据え膳は嫌いなタチでな、次はその首はないと思え」
「それは失言だった、謝罪するよ」
とても謝罪するような顔ではないな、と黒龍は静かに思う。
謝罪するような男が笑っているがその一切が冷めたような目をするものかと刀を納刀する。
末恐ろしい男だ、己をA級と名乗っているが十分に"S級/世界を滅ぼした者"に至るのに相応しいだろう。
そんな黒龍の考えを無視して、ルキウスは切り替えるようににぱっと笑った。
「それじゃあ引き上げよっか!これ以上此処にいても戦いはないだろうからね」
「…だな、つまらん戦いはごめんだ」
「きっと彼の事だ、君が気に入りそうな案件を用意してくれるはずだとも」
互いに食えない男だと思い、これ以上首を突っ込むのも藪蛇にしかならないと戦場だった場所を立ち去る。
同じ色を身に纏えど、悪魔の数字を冠した獣とかつて人類に知恵を与え人類を害した鬼とでは余りにも相性が悪いと実感する。
後日、トマスの元に二人が珍しく息を合わせて「互いに組むのはやめた方が良い」と進言する姿があったとかないとか。
例え赤に塗れようとも
「る、ルキウス殿!!」
「なんだい?」
「些か私には厳しいのだが!?」
「あはは、そろそろ口閉じないと舌噛むよ!」
青年を担いで皇帝は猛スピードの中駆け抜ける。
後ろを確認すれば干渉汚染された野犬数匹が此方を追ってきている、自分一人ならその場で対処出来るが今回は護衛が必要な仲間が居る。
ならば戦う場所は選ばなければならないとこうして逃げ回っている所存だ。
追いつかれる事はないスピードで逃げられてはいるが完全に振り切っては他の人間が犠牲になるかもしれない、その上今自分の肩に担いでいる仲間にも負担がかかっている。
どうしたものかと考えるルキウスはとある場所が目に入る。
「今から右に曲がるよ!」
「あ、あぁぁぁあ!?」
グンっと膝に力を入れて目的地へ目指す。
急速なカーブによるGは肩に乗せられてる仲間には負担なようで顔色が悪い。
野犬達もしっかり着いてきてるようでルキウスは安心した。
「もうすぐ終着点だ、それまで吐かないでね!」
「ぜ、善処する…」
後で魔術で整えれば良い話ではあるが流石に衣服を吐瀉物塗れで戦うのは気が引ける。
返り血と臓物よりも気が引ける、彼方はどうしたってかかるものと思ってるだからだろうか。
ボロボロの建物の近くに来れたなら壊れた窓から飛び込む、コンクリートが晒されたこの廃墟は捨てられてからそれなりの年数が経っているだろう。
漸く肩から降ろされた青年は走っていたルキウスよりもぜぇはぁと息が乱れている。
一方のルキウスは一人の人間を担いで野犬より速いスピードで駆けたのにも関わらず汗一つもかいてなかった。
「さて、ここからが戦闘だ。ヴィルくんはなるべく隅にいた方が良い」
「分かった…こちらも余力があれば…」
「必要ないよ、君の援護は嬉しいけどこの程度は僕一人で十分だ」
キンッと金属音を立てて剣を顕現させる。
ルキウスが入ってきた方へ向き直ったと同時に野犬が窓を突き抜けて入ってきた。
グルルと唸り威嚇する様は一般人の感覚を持つヴィルヘルムからすれば十分脅威を感じるほど恐怖を抱く。
しかしルキウスは微笑みを崩さないまま、剣を構える。
「さて、君達には悪いが此処で死んでもらうとしよう」
「僕達にはやる事があるからね」
ニコッと笑っているが気配は殺気に満ちているとヴィルヘルムは背中越しに慄く。
野犬が駆けると同時に前へ走る、野犬の牙を鮮やかに避け喉元の下から刃を振り上げる。
スパンと軽快な音を立てて野犬の1匹は首と胴が離れて血飛沫が舞い、彼の白い服装を赤に染める。
「Assault/攻撃干渉──Rosso Perfect!」
赤い刃は翻り斬撃はどれも的確に野犬の身体を切り刻んでいく、それと同時に血は飛び交いルキウスの体は赤く染まっていく。
やがて野犬は1匹残らず地に臥した後、そこには血みどろのルキウスだけが立っていた。
「よっと、こんな感じかな。ヴィルくん大丈夫?」
「あ、あぁ……ありがとうルキウス殿」
すぐに死体は塵に還り同時にルキウスの肉体に付着した返り血も何もなかったように消えていく。
先程まで血に塗れた戦闘を行なっていたとは思えない笑みに「恐ろしい男だ」とヴィルヘルムは密かに思う。
「さぁ、任務の続きと行こう!僕達が居ればすぐに解決さ☆」
「そうだな、だが随分移動したようだが…」
「大丈夫、また君を担いで行くよ☆」
「えっ」
またあの猛スピードを体験しなければいけないのかと冷や汗をかくヴィルヘルムにルキウスは呑気に準備運動を始める。
これからの依頼まで自分の体力は持つだろうかとヴィルヘルムは自分の未来に不安を覚えた。