無題甘い味のするおかずが苦手だ。
甘いものは果物とかお菓子とかしか知らない。ご飯のおかずはどれもしょっぱいのや辛いの、時々すっぱいのがあるのが普通なのに、甘い味のおかずを食べるとへんな気分になる。これはご飯なのに甘いからおやつみたいで違和感がある。だから苦手だ。
宿儺の作ってくれるご飯は全部美味しい。おやつに出してくれるお菓子も美味しい。宿儺の作る料理は全部好きだ。
好きなのに今日の晩御飯のおかずに何故かパプリカが入ってた。
パプリカはピーマンみたいな見た目のに苦くない。甘い味がする。どんなに色んな味付けをされてても口の中ではパプリカの味しかしない。それは俺が犬の獣人だからなのかな。
だからパプリカは好きじゃないのに、なんで今日のおかずに入ってんだよ。
他の具は美味しいのにパプリカだけは食べれなくて、避けていたらお皿の上にはきれいにパプリカだけ残ってしまった。どうしよう。
「なんだ、ぱぷりかは食えんのか?」
パプリカを残してるのが宿儺に見つかった。
今まで宿儺のご飯を残したことはない。ましてや好き嫌いがあるなんてバレたら恥ずかしい。宿儺の前では弱い俺を見られたくない。
「…ッ!食える」
本当は食べたくないけど、思わず食べれると言ってしまった。
言ってしまった手前、ますます残すことができなくなった。食べなきゃ。
お箸でパプリカを摘んで口まで運ぶけど、口の中に入れる手前でどうしても怖気づいてしまう。
そんなことを何回も繰り返してたら宿儺が「ほら、頑張れ頑張れ」って茶々を入れてきた。
応援されなくったって俺はパプリカくらい食える!
その勢いで口の中に入れ、ぎゅっと目をつぶりながらよく噛んで飲み込んだ。宿儺からいつもよく噛んで食えって言われてるから。
一つだけだけどちゃんと食べれたことにホッとしてたら頭の上に大きな手が乗っかってきた。
「よく食えたな伏黒恵。偉いぞ」
そう言いながら大きくて温かい宿儺の手が俺の頭を優しく撫でてくれた。
褒められた……パプリカを食べたら褒められた!
褒められたのが嬉しかったのと、もっと褒めてほしくて残りのパプリカも残さずに食べれた。
空になったお皿を見せたら宿儺は満足そうに笑って俺の頭をまた撫でてくれた。
宿儺の手は大っきくてゴツゴツしてるけど温かくて大好きだ。
この日からパプリカのことがちょっとだけ好きになった。