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    亡骸置き場

    @nakigara_79

    エログロは人生

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    亡骸置き場

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    dom/subユニバース世界線のdom松井×normal福山

    右手隠しておあいこに 何か、おかしい。
     松井とか田中とか、よく気がつく性格の友人が近くにいるせいであまり言われないが、俺だって結構人を見ている方、だと思う。お節介とまではいかないと思うけど、女の子にほっといてよ!と言われたことは1回や2回ではない。素敵な性格をした姉(これは皮肉だ)に、そういう教育をされてきたせいもあるかもしれない。とにかく、結構気になってしまう方なのだ。で、今おかしいっていうのは、松井のことなんだけど。
     まず、目が合わない。松井は目を見て話を聞いてくれる方だ。以前、迷子の女の子に、しっかりしゃがみこんで声をかけていたのを見たことがある。立ち上がった後、その姿勢が首にキたのか首を回していて、ちょっと笑ってしまって怒られた。その松井と、最近は目が合わない。合わせようとしても視線はちょろちょろと逃げるし、ずっと伏し目がちだ。松井って結構まつ毛長いんだな。いつもの優しげなタレ目とのギャップがあって、かっこいい。かっこいいんだけどもさ。そう思って目元を見ていたら偶然目があった。その瞬間、ぞく、と首筋が寒くなった。いつも柔らかい目つきが妙に鋭かったような。
     眉間にも皺がよってる。優しげな八の字眉毛を、ここ数日は時折ひそめている。頭でも痛いんだろうか。
     返事も、ちょっと遅い気がする。いつもよく考えてから返事をしてくれる方だし、それでもちょっとズレた返事をする天然さもあるんだけど、それとはちょっと違う。zoomで話してるみたいな距離感というか、微かな間がある。
     言葉選びも少し冷たいかもしれない。松井はしっかり言葉を選んで話す。誤解を与えないため、冷たい印象を与えないため、いろいろ考えて話してくれるのだが、最近は精査前の言葉が出てきている、気がする。つっけんどんというか。坂本から出てきたら今日は優しいね、と思うけど、松井から出てくると怒ってるのかな、と思うような言葉選びだ。気のせいかな。
     そういえば、最近は節々でよそよそしかったような気がする。思い返せば、というレベルで気にしてはいなかったけど。
     と、思っていた矢先、松井が学校を休んだ。体調不良らしいよ〜という平門。そういえばと感じていた違和感を平門と田中にも言ってみた。平門がそう?全然?と答えるのはわかってたけど、田中が言われてみれば…?と首を捻るのは意外だった。
     …もしかして、俺が怒らせてる?2人が気が付かないってことは。全く心当たりがなくて、怖い。そんな中受けた講義が、第二性──dom性とsub性についての講義だった。
     その講義では、欲求の発現メカニズムから、ランク付け、社会制度などに加えて、抑制剤についての説明があった。
    【dom性・sub性の欲求により生活に支障が出る場合、かつ原則としてAランク以上である場合、両性に抑制剤の処方が許可されている。】
    【創薬技術の進歩により、副作用は軽減されつつあるが、抑制剤の使いすぎ、欲求の抑えすぎで症状が出ることがある。】
    【domの主な症状に、glareのコントロールが効かなくなる、というものがある。glareは本来他のdomを威圧するもの、subの服従欲を誘発するものであるが、まれに高ランクdomのglareがnormalにも影響することがある】
    【その他、頭痛、微熱、倦怠感、思考のブレ、イライラなど…】
     …松井って、domなんだっけ?

     多様性を認める風潮が広がってはいるけれど、やはりみんな、なんとなくその話題を避ける節がある。normalの俺にとってはどこか遠い話で、義務教育で習ったところで実感が湧かなかった。そもそも、dom性・sub性を持つ人は合わせても全人口の5%に満たない。1クラスに2人いるかいないかくらいだ。しかも、カミングアウトしないことが多い。
     しかし、大学に入ってみると、俺domだよ、とケロリと言う同級生が多かった。dom性の人間に優秀な人が多いという俗説があるが、本当なのではないかと思わされる。彼らにしてみればnormalの俺にはカミングアウトしやすいということだった。dom/sub異性相手だと、どうしても支配関係を意識してしまうらしい。domの平門がnormalの田中と仲良くできてるのはそういうことらしい。domの同級生の相談や惚気話の聞き手になることも多かった。
     だからといって、当人たちが第二性をどう捉えているかわからない俺から、詮索することはなかった。つまり本人が自分から言ってくれないと知るわけがないわけで。
     松井があえてdomである(多分)ことを俺に言っていないのなら、それを俺から覆すことはしたくない、が、やっぱり放っておく気にはなれない。友達だし。あと、こういう時力になれるのはやっぱりnormalなんじゃないか?講義の合間、スマホを取り出して、松井にLINEする。
    (体調大丈夫?)
    (買ってきて欲しいものとかない?)
    (今日のレジュメもついでに持ってくけど)
     しばらくしてから通知が鳴る。
    (ないよ ありがとう)
    (体調は大丈夫)
     …やっぱり少し冷たいような気がする。いや坂本だったら雪でも降るのかと思う文面だけど、普段の松井なら、心配かけさせてごめんねとか、福山も体調に気をつけてねとか、そういう一言を忘れないはずだ。
    (おっけ なんかあったら言ってな)
    (なんもなくても言っていいけど!)
    (遠慮するなよ〜)
     お大事に、のスタンプにいいねがつくのを見て、スマホを下ろす。本人がいいならいいんだけど。いいはずなんだけど…やっぱり気になってしまう。う〜ん…とすこし首を回す。次の講義で今日は終わりだ。終わったらやっぱり行こうかな。ポカリくらいだったらあっても邪魔にならないだろうし。うん、そうしよう。

     講義終わり、ドラストで買い物をして、レジ袋を引っ提げて松井の家へ向かった。方向は反対だけど、別に苦ではない遠さだ。
     松井のアパートの部屋番号を確認して、インターホンを押す…が、返事がない。スピーカーからもなんの物音も聞こえない。もう一度押そうとして、やめた。寝ているのかもしれないし。ドアにレジ袋をかけようとした時だった。
    「…福山?」
     驚いて振り返ると、松井だった。どこか行っていたのか、カバンとコート。どことなく顔が赤い気がする。バチリと目が合う。ぞくり。まただ。
    「あ、」
    「あぁ…病院に、行ってて…」
    「え…あ、そっか!ごめん急に来て!」
     目線を泳がせながら言う松井に、慌てて謝る。レジ袋を持ち直して、歩み寄った。
    「これ!ポカリとか、カップスープとか…あると安心だと思って」
    「……ありがとう」
     ワンテンポ遅れて、松井が返事する。やっぱりどこか白々しい気がする。もしかして、迷惑だったかな。こんな時に、ほっといてよ!と言われた過去を思い出してしまう。やっちゃったかなぁ。早く帰ろうと、レジ袋を受け取らせて、エレベーターの方へ向き直す。
    「ごめんな!ちょっとお節介だったかも、」
    「そんなことないよ!嬉しい!」
     松井が歩き出そうとした俺の肩を掴んだ。びっくりして振り返ってしまい、また目が合う。
    「ひ、」
     思わず声が出てしまった。慌てて口を隠すけど、背中を冷や汗がつたう。俺の動揺に、松井も気づいてしまったようだ。きゅっと目を瞑り息を吐くと、決心したように口を開く。
    「俺、domなんだ」

    「ごめんね。あんまり目を見ないようにしていたんだけど」
     俺は松井の部屋のベッドに座らせられた。松井は自分の財布からカードを取り出して見せてくれる。少し幼い松井の顔写真と、細々した文字が印刷されている。第二性の証明書だ。第二性の発現が認められ、病院で検査を受けると自治体から交付される、と習った。診察をスムーズにしたり、domやsubを騙った犯罪などを防ぐためのものらしい。実物を見るのは初めてだった。
     【Dom】【S級】
     え、S級……印字を見て驚愕する。柔和な松井のイメージからは想像できない。証明書と松井を交互に見比べる。ポカリを冷蔵庫にしまい終わった松井はデスクチェアに座っていた。
    「抑制剤を使っているんだけど、最近副作用が出てて……もしかして、気がついてた?」
     俺はコクコクと頷く。なんとなく、不調なのかなと感じていたこと、今日丁度講義で習った副作用の症状と似ていて、もしかしてと思ったということ。話すと、松井は参ったように頭を抱える。隠してたつもりだったんだけど…と嘆いている。
    「隠してたって…やっぱり言いにくいものなの?」
    「言いにくいというか、う〜ん、まぁ…」
     松井は言い淀む。
    「いや、いいんだ。こういうとき助けてやれないのはもどかしいなって、ちょっと思っただけで……それで?病院に行ったの?」
    松井は頷く。
    「薬とか出たの?」
    「…いや」
    「安静にしていれば治るものなの?」
    「…いや」
     松井は言いづらそうに答える。
    「…欲求を抑え続けていることが原因だから、発散するのが1番…手っ取り早い、んだけど…」
    「…なるほどね?」
     松井から色恋の話は全然聞かない。それは松井がモテないとかではないし、色々あるのかもしれないけど、パートナーがいるという話は確かに聞いたことがない。
    「…どうすんの」
    「…どうしようかなって」
     松井は顔を赤くして顔を逸らしている。困るだろうな…友人のsubに頼んでプレイさせてもらうとか、できないだろうな、松井だし。ましてdom/sub風俗なんて。俺も腕を組んでう〜んと悩んで、聞いてみる。
    「それってさ、normal相手でもいいの?」
    「え、」
    「俺でもいいのかってこと」

    「domとsubの嗜好は精神性のものだから、normal相手でもある程度満足することはできる…異性の方が合意が取りやすかったり、双方が満たされることが約束されるってだけで」
     松井はデスクチェアを動かして、ベッドに座る俺にまっすぐ向き合っている。もちろん目は伏せたままだけど。
    「domのglareはnormalにも影響するし…それはわかってるよね」
     俺は頷く。
    「…本当にいいなら、すごくありがたいけど」
    「いいよ。だって、それしかないだろ」
     松井がそんな調子だと、俺も心配だからさ。とは言うものの、やっぱりよく知らない分、怖い。だってあの目と、まともに目を合わせるってことだろ。松井はきゅっと目を瞑ってから、言う。
    「ありがとう……ちゃんと一つずつ説明するから、どうか怖がらないで」
     松井はプレイについて、いくつか約束をしてくれた。俺にもわかる簡単なcommandのみを使うこと。するのは簡単な命令と、会話と、軽いスキンシップまで。嫌がることは絶対にしないこと。少しでも嫌だと思ったら、safe wordをつかうこと。safe wordは、「怖い」。
    「それから、さっきはglareで恐怖心が生まれたかもしれないけど、お前が俺を信じて、委ねてくれれば、心地よいものに変わるよ……信じてもらっても、いいかな」
    「信じるよ。当たり前だろ」
     松井のためだし、松井が俺に酷いことするとは思えないから。コイツは優しい男だ。俺は松井のそんなところが1番好きなんだから。
    「……ありがとう。じゃあ、目を閉じて、ゆっくり息をして……信じてね」
     ゆっくり息を吐く。良い?という声が頭上から聞こえる。頷く。
    「Look.」
     顔を上げると、松井の目と視線が真っ直ぐに合った。ゾクリ、とする。冷たいような愛しむような、感情の読み取れない目。俺の瞳孔から腹の底まで見通すような目にゾクゾクする。嫌なゾクゾクじゃない。なんだかフワフワするような、心地よいような、とにかくさっきとは違っていて、松井の目から目を離せなくなっている。
    「怖くない?」
     何も言えなくなっている俺は頷くしかできない。松井は目を優しく細めて笑ってくれた。
    「信じてくれて、ありがとう。嬉しいよ」
     ありがとう、嬉しい。頬が熱くなってきた。松井嬉しいんだ。俺も嬉しい。
    「Pass. 証明書、返してね」
     右の指の間に挟めていた第二性証明書を、松井に差し出す。受け取った松井は、good. ありがとう、と言って財布に戻す。ゆったりとした、でも無駄のない所作。俺はその所作に釘付けだった。
    「俺がdomだと知って、驚いた?」
     頷く俺をみて、松井は困ったように眉を下げて、ごめんね、と呟く。
    「話さない方が迷惑かけないと思っていたんだけど……逆だったね。隠すような真似をして、ごめんね」
     松井が謝るたび、胸の奥がキュッとなる。謝ることなんてないのに。焦る。話そうとして口を開けるけど、見つめられてるとうまく声が出せない。
    「あぁ、俺ばっかり話してたね。Tell.」
    「……あやまら、ないでほしい」
     半ば息継ぎのように声が出た。予想外の言葉だったのか、松井の目に疑問の色が差す。俺は続ける。
    「謝らないでほしい、心配かけたくなかったんだろ、気持ち、わかるし……俺だって勝手に心配して、勝手に突撃したんだから……お前が『ごめん』なら、俺も、『ごめん』だ」
     頭がふわふわする。多分すごくたどたどしい話し方になっていると思う。けど、松井が静かに聞いていてくれているのがうれしくて、自然と笑顔になってしまう。
    「お互いさ、思いやりもおあいこ、勝手さもおあいこ、だろ。勝手ついでに……迷惑なんて思わないで、無理して秘密にしないで……言いたくないことも、あるだろうけどさ」
     松井の目からまた感情が消える。気持ち見開いた目は、相変わらず俺の全部を見透かしているような気がする。心なしが頬が熱い。顔が赤くなっているかも知れない。お酒でほろ酔いしたときの感覚に似ている。
     ボーっとした気持ちで見つめて返事を待っていると、松井はゆっくり息を吐いた。ワンテンポ遅れて、それがため息だと気がつく。
    「……ありがとう……終わりにしよう」
     Good boy. 松井の大きな手が俺の頭に乗る。撫でられるなんて子供の頃ぶりだったから驚いた。呆気に取られていると、松井はデスクチェアから立ち上がった。冷蔵庫からポカリを一本持ってきて、俺の前に差し出す。すっかり冷えていた。
     冷たいポカリを熱った頬に当てると、少しずつ酔ったような頭が冴えてくる。
    「……ちょっとは楽になった?」
    「うん……少し。無理させてない?大丈夫だった?」
    「全然!平気よ」
     ニッと歯を見せて笑ってやる。本当は酔っ払ったときのようなこめかみの重さは残っていたけど、酒に酔ったと思えばこのくらい。見ると、松井の目つきにもいくらか穏やかさが戻ってきている。
    「ごめんね、こんなことお願いするなんて、情けない……」
    「そんなことないって!謝んなよ、俺がやるって言ったことだし!思いやりのおあいこだって、さっきも言ったけど……」
     松井は困ったように微笑んでいる。以前オープンキャンパスを手伝って、余った配布用のダサいクリアファイルをどっさり貰ったとき、こんな顔をしていた。つまり、ありがた迷惑、という顔。あー、やっぱりやっちゃったかな。お節介だったかなぁ。やりすぎちゃうんだよな、俺って。居た堪れなくなって、とりあえず立ち上がる。
    「ま、まぁ、じゃあ、俺は今日は帰ろうかな!……またなんかあったら、言えよ」
    「……うん、ありがとう。でもこんなことはもう、しなくていいよ」
     玄関で靴を履いている背中に、温度のない声がかかる。表情が想像できなくて、思わず振り向くと、微笑んでいる松井がいた。
    「こんなことって……なんで」
    「おあいこじゃなくなっちゃうから」
     言葉の真意が読めなくて、でも聞くべき言葉も見つからなくて固まっていると、じゃあ、気をつけて、と先に言われてしまった。あぁ、と笑み混じりに答えて、外に出る。
     閉じかけた扉の隙間に、お大事に!とだけ滑り込ませると、ありがと、と小さい返事が、扉の閉まる音と同時に聞こえた。おあいこじゃなくなっちゃう。おあいこじゃなくなっちゃうって、なんだ?
     アパートのエレベーターを待ちながら"Play"のときの松井を思い出す。俺を静かに見下していた松井は、いつもの雰囲気とは確かに違っていた。あの瞬間、確かに俺は彼の「支配下」だった。ゾクリ、とする。今度は、恐怖……だけど、ちょっと違う。「dom/sub異性相手だと、どうしても支配関係を意識してしまう」。dom性の友人がよく言っていた。もしそうなったら、普通の友達じゃあいられなくなっちゃうだろ。「まれに高ランクdomのglareがnormalにも影響することがある 」。松井はS級domだった。つまり、誰であっても支配下におけてしまう存在。
     エレベーターの扉が開いて、ハッとして乗り込む。プラスチックの『1』を押し込みながら、考える。松井はきっと。

    「"おあいこ"じゃなくなっちゃったら……怖いよなぁ」


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     松井とか田中とか、よく気がつく性格の友人が近くにいるせいであまり言われないが、俺だって結構人を見ている方、だと思う。お節介とまではいかないと思うけど、女の子にほっといてよ!と言われたことは1回や2回ではない。素敵な性格をした姉(これは皮肉だ)に、そういう教育をされてきたせいもあるかもしれない。とにかく、結構気になってしまう方なのだ。で、今おかしいっていうのは、松井のことなんだけど。
     まず、目が合わない。松井は目を見て話を聞いてくれる方だ。以前、迷子の女の子に、しっかりしゃがみこんで声をかけていたのを見たことがある。立ち上がった後、その姿勢が首にキたのか首を回していて、ちょっと笑ってしまって怒られた。その松井と、最近は目が合わない。合わせようとしても視線はちょろちょろと逃げるし、ずっと伏し目がちだ。松井って結構まつ毛長いんだな。いつもの優しげなタレ目とのギャップがあって、かっこいい。かっこいいんだけどもさ。そう思って目元を見ていたら偶然目があった。その瞬間、ぞく、と首筋が寒くなった。いつも柔らかい目つきが妙に鋭かったような。
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