手遊びキッス「ヤスくん!」
振り返ったのは名前を呼ばれたからだけじゃない。好きなあの娘の、頭に付いた紐リボンの音が聞こえて来たから。
振り返った瞬間に唇に柔く当たるなにか。驚きつつ動けないまま、寄り目気味に見下ろして確認する。
それはキツネを形作った彼女の手。口に該当する部分にキスをされていた。
「いきなりごめんね。誕生日のキスに憧れもあったんだけど、このスタジオの中だとみんなに見られちゃうかも知れないから」
『誕生日おめでとう』と、いつも通りほわほわな笑顔を向けてくれる彼女。
「まあ、なんていうか……ありがとよ」
自分もキツネを手で作り、手遊びの接吻を一瞬だけ彼女のキツネへ贈り返した。
(おわり)
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