かわいいのは禊を終えた夕暮れの波止場のコンクリートの上。明日の出航に備えた積み荷のチェックをしていた。
「あの!」
ソプラノの声に突然呼び止められてそちらを見る。そこには垂れた大きな黄色い耳が特徴の女性が立っていた。耳から察するに自分と同じウサギ系の種族だろか。
「今日のライブ――じゃなかった、禊すっごく良かったです! 褒め言葉になってなかったらごめんなさい、とっても可愛かったです!」
夕暮れの景色を写し出す、意思の強い煌めく瞳。
「えっと、それだけ伝えたかったんです! では失礼しますッ!」
彼女は踵を返して軽快なステップで走り去って行く。
彼の手は自ずと引き止めるように伸ばされていた。しかし揺れるあの大きな耳は、既に届かないほど遠くに居た。
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