がらんどうを壊したい「少し走ってくる」
そう言って身を翻した一孝を、呼び止めることはできなかった。
伸ばしかけた手を戻し、寿史は唇を噛み締めた。また、自分は彼に何も言えなかった。……いや、仮に何か言えていても、彼は聞いてくれなかっただろう。
彼にとって寿史は、弱みを見せられる相手ではない。
その事実が心を締め付け、寿史は俯くことしか出来なかった。
話は少し遡る。
事の発端は白星の文化祭だ。皆でバンドをしようという敬の発案で、寿史達はヒーロー活動の合間にそれぞれ担当の楽器を練習していた。
過去の文化祭の思い出を語りながら練習する時間は楽しかったが、同時に寿史は少し寂しさを感じていた。
なぜなら、その思い出の中に、一孝と光希は登場しないから。
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