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    Mr.Σ×Mr.Lの🟥🟩。
    拙宅のシグマは片言よりで、エルは短気なヤンキーです。

    #シグエリ
    #腐マリ
    rottenMarijuana

    【キスをしないと出られない部屋】白い天井、白い床、白い壁、そして白い扉。それ以外に何も無い摩訶不思議な部屋に閉じ込められ、Mr.Σは地に足を投げ出してぼんやりと壁に寄りかかっていた。真っ白な部屋の中で自身の黒い衣装と赤いスカーフだけが色彩を放つ世界は何とも異彩で、シグマはそれを自身の心が受け入れられるまでじっと体を落ち着かせている。だから白い扉に靴裏を何度も何度も押し付けているもう一つの黒と緑のスカーフの事は暫く放置していた。
    「クソがッ!!!いい加減開けよクソ扉ッ!!!」
    罵声と共に振り上げた脚を扉に叩き付ける。派手な音が鳴り響くが、扉が開く気配も破られる気配も全くなかった。その事にMr.Lは更なる怒りを育て上げ、追加の蹴りを扉へ叩き込んでいく。
    エルの揺れる背中と大きく動く肩を見つめながら、シグマはようやく立ち上がる。その視線はエルの上、扉の上に向けられていた。
    【キスをしないと出られない部屋】
    性根が腐った輩の低俗な悪戯のような謳い文句に、怒りの沸点に音速で到達したエルが扉を蹴り始めて早十数分。シグマは息を切らして扉を睨みつけるエルの背中へ手を伸ばす。
    「える、それ以上はムダ、もうや」
    「触んじゃねぇッッ!!!」
    エルの肩へ指が触れそうになった瞬間、鞭のように飛んできたエルの腕がシグマの手の平を吹き飛ばした。物が弾ける音がして、シグマの手の平は一拍置いたのちに鈍い痛みを帯びてくる。ギラギラ光る目でエルに睨み付けられながら、シグマは痺れる手をちらりと見ると、何事もなかったかのように再び同じ手をエルへと差し出してきた。
    「える。ちょっと休もう。きゅうけい、大事」
    「……………………チィッ!!」
    態度の変わらないシグマに盛大なる舌打ち。その手を取る事なくドカリと胡座をかいて座り込んだエルに、シグマはまた何事もなかったかのように隣へ座った。
    「どうなってんだよこの扉!!何でこんだけ蹴ってんのに開かねぇんだ!?」
    「この扉、とてもがんじょう。構造ナゾ」
    「メタルブラザーも呼べねぇし、何なんだよこの部屋は!!」
    「ここはいくうかん。恐らく。それが一番自然なかんがえ」
    「異空間だなんてそんなホイホイあってたまるかよ!!ぁア!?」
    「える怒りすぎ。疲れちゃう。おちついて、深呼吸。ゆっくり」
    「うるせぇドチビがッ!!!俺に説教すんじゃねぇッ!!!」
    床を拳で叩くエルは怒り狂っていた。短気な性格が相俟って、この理不尽極まりない扱いに火山の噴火が止まらないらしい。
    カンカンにブチギレているエルを置いて、シグマは再び扉の上に書かれている文字を見る。
    「キスしないとでられないへや」
    「声に出して読むなブッ飛ばすぞ」
    「える、ぼくとキスする?」
    「お前今までの俺の行動見てなかったか?キスする覚悟がある奴が扉に物理攻撃する訳ねぇだろ!」
    「それムダだった知った今、ぼくとキスする?」
    「しねぇよ」
    射殺さんばかりにエルの視線が突き刺さる。
    「俺は『そういうコト』は一切合切大嫌いなタチなんでな。死んでも誰かと触れ合ったり舐め合ったりなんぞするもんか。特にてめぇのその張っ倒したくなるツラした奴とは絶対にな!」
    唾を吐き捨てた。
    詳細は省くが、エルは他者との濃密な接触を極度に嫌う傾向がある。自身と同じ『ルイージ』であるあの二人ならまだしも、怨敵である『ジャンプマニア』の面影をばっちりと残すシグマとの濃密な接触など、エルからすれば言語道断だった。
    完全拒否、完全拒絶、完全否定。
    「そう」
    それに対し、シグマはたった一言だけを返した。
    「じゃ、しかたないね」
    溜め息を吐くシグマ。あまりに素っ気ない態度に悪態をついた方がたじろぐ有り様だった。
    「仕方ねぇっておま、状況わかってんのかよ…………」
    「キスしないとでられないへや」
    「そこじゃねぇよ!そうじゃなくて、一生ここに閉じ込められるって事だよ!」
    「わかってるよ」
    冷や汗を垂らすエルにシグマはいつも通り淡々と返してくる。
    「キスしないとでられないへや。けどえるはキスしたくない。キスしないとでられないへやでキスしたくないとなれば、このへやからは一生でられない。サイアクだね」
    「よく分かってんじゃねぇか…………」
    「ぼくはえるとキスしたいけど?」
    「あっそ。死ね」
    シグマの誘いをエルは一刀両断。
    「俺はしたくねぇ」
    そう吐き捨てたのち、靴跡で汚れた扉を見据えて思考の海に潜るエル。何が何でも脱出条件を満たさぬままに脱出する方法を探しているらしい。ぶつぶつと思案を呟いているエルにシグマは無言。手助けする事も対立する事なく、シグマはエルの隣から後ろへと移動して再び座り込み、そのまま遠慮なくエルの背中へと寄りかかった。二人の背中が密に触れ合う。
    「離れろドチビ」
    シグマの背後から怒気を含んだ声が聞こえてくるが、無理矢理振り払ってくる気配は無い。どうやら先程の一撃は激昂状態の自分をコントロール出来なくなって放たれた衝動的なものだったらしい。そう仮説を立てたシグマは口を開く。
    「える。二個三個質問。おっけー?」 
    「おっけーなワケあるか」
    「える、どうしてたにんと触れ合うのきらう?」
    「話聞けよ!」
    「える、どうしてたにんと触れ合うのきらう?」
    「………………………………………今のてめぇみてぇに鬱陶しいからだよ…………気持ち悪ぃし」
    「るいーじとどくたーるいーじ、えるに触れてもそんなに嫌がらないのに」
    「そこの二人は色々と別枠なんだよ」
    「まりおとどくたーまりおがえるに触れると、えるはめちゃくちゃ怒る」
    「そこの二人は論外なんだよ」
    「ぼくは?ぼくもロンガイ?それともベツワク?」
    「論外だな!そのツラしてる奴は皆論外だ」
    「今、ぼくとえるの体、くっついてるけど?」
    「俺は寛大な男だからな。多少なら許してるよ。それ以上はぶん殴る」
    「ふうん」
    「おら、くだらねぇ質問してねぇでお前も脱出方法を考えろよ」
    「える」
    「あ?」
    「える、きっとぼくとキスできるよ」
    「は?」
    「だって」
    そこでエルはようやく気付いた。
    シグマの声が異様に近い事に。 
    「さっきからぼく、えるにべったりくっついてることに、えるはぜんぜん気付いてないから」
    そう耳元で囁かれ、エルの首は弾かれるように後ろを向く。
    すればシグマは宣言通り遠慮がちな背中合わせの体勢から、エルの背中に大胆に擦り寄る体勢に知らぬ間に変わっていたのだ。
    両肩にそっと添えられている二つの手の平の存在を、背中全体に伝わってくる他人の熱を鼓動を感じ取ってしまい、全身の毛穴という毛穴から汗が吹き出る。
    怒鳴るより先に体が動く。
    エルの上半身は半回転し、その勢いを乗せて右腕はシグマに向かって飛んでくる。それを待っていたシグマはエルの背中から瞬時に離れ、自身の顔面に向かって一直線の肘鉄をするりと交わしそれを左手で掴み取ると、そのまま全体重をかけて後方へ押し込んだ。
    やらかした、とエルが悟った時には時既に遅し。
    胡座という足を組む体勢も災いし、バランスを失った肢体は加わる力のままに無抵抗に流され、エルは仰向けで床に倒れ込んでしまった。
    咄嗟に首を曲げて頭を打つ事は防いだエルだったが、そのすぐ側に派手な音を立てて床に縫い付けられた自身の右腕をまざまざと見せつけられ、反射的に左腕で自身の口元を覆い隠してしまう。
    この瞬間、エルの敗北は決定した。
    「ッ!!!」
    自分の影の中からぎろりと睨み付けてくる青い目にシグマは残していた右手を悠々とエルの顔の隣へ置いてから、小さく微笑む。
    「とった♪」
    「てんんんめぇえええ…………ッ!!!」
    湧き上がる怒気に任せてエルは何とかシグマの腕の中から逃げ出そうと藻掻く。だが利き腕は拘束され、残る片腕は防御に回してしまい、挙げ句恰幅の良い男に腹の上に乗り上げられてはどうする事も出来なかった。
    「ムリ。力比べ、えるはぼくにかてない。ムダ」
    聞き分けの悪い子供を叱るように、シグマはエルの腕を鷲掴む手の平へ剛力を込めた。それは瞬間的なものだったが、ぴしりと骨が軋んだ痛みにエルの顔は歪む。
    「そもそもお腹圧迫されたらにんげんはチカラ出ない。はいらない。詰み」
    「っかはっ!」
    「いきも苦しくなる。だからどなれないね。カワイソ」
    「うゔゔ…………!」
    眉間に皺を寄せて不自由な呼吸に苦しむエル。そんな彼にシグマは再び問うた。
    「える、ぼくとキスする?」
    「こっ、このっ、悪趣味っ、野郎がっ!」
    酸素不足でありながらもエルの闘志は消えない。
    「こんだけ優勢とっ、ておいてもまだっ、聞いてくるのかよっ!てめぇの好き勝手やりゃあっ、いいじゃねぇかっ!俺をコケにすんのもっ、いい加減にっ、しやがれっ!!」
    「アクシュミ?ううん違う。これはアイだよ」
    エルの主張に対し首を横に振り、シグマは語る。
    「ぼくはえるが好き。だから初キッスはお互いが好きどうしになってからって、決めてた。えるがぼくを好きになってくれてからって。それがよかった。それがよかったんだ。けどそのユメは今、叶わなくなる。ぼくはそれが許せない。ここを出たらここにぼくらをとじこめたクロマク、どれだけじかんかけてもみつけだしてぼくは徹底的に叩き潰す。ケッテイジコウ」
    眠たげな瞳は暗に病み、その眼差しを直に浴びたエルの口はぴたりと止まった。
    「…………それはそれとして、えるとキスしないとここからでられないなら、ぼくはえるとキスするよ。ほかに仕方が無いからしかたない。ごめん。える絶対嫌がる抵抗する知ってるから、ちょっとテアラになったのも、ごめん。ごめんね」
    今度は悲しげな色に変わる瞳にエルは目が離せない。
    「だからせめて、えるの同意がほしい。イヤな思いさせちゃうだから、すこしでもキモチを軽くしてあげたい。ムリヤリは、したくない」
    シグマの右手が静かに動き、唇を守るエルの左腕に指先が触れた。すればエルの体は震え、さっと視線を外された。
    「えるのココロがぼくはほしい。ぼくをほんの少しだけでも、えるのココロの中へ入招いてほしいの。…………ダメ?」
    「………………………………」
    答えなかったのか、答えられなかったのか。シグマの願いにエルは終始無言だった。
    シグマの手によりゆっくりと鉄壁の守りを外されていっても、終始無言だった。





    脱出後、集会の時間をとうに過ぎても現れない二人を探していたルイージとドクタールイージの心配する声に一切答える事なく、エルはエルガンダーを喚び出し乗り込んでさっさと飛んでいってしまった。その後ろ姿をぽかんと見送るルイージとドクタールイージ。その更に後ろでマリオとドクターマリオがシグマに事情を聞こうとしていた。
    「キャンセルならキャンセルで連絡の一本ぐらい寄越してくれよ。心配するじゃないか!」
    「で、どこでどんな油を売っていたのかね?」
    「……………………あぶら」
    二人の問いにシグマは思考する。
    突如として異空間に閉じ込められ世界と隔離されるというハプニングがあれど、密かに願っていた夢を潰されるというトラブルはあれど、気難しい彼に対して自分が今日までせっせとコツコツと積み上げてきた『彼からの信頼』の成果が目に見えて現れてくれた喜び。
    「ごくじょうのあぶら、売ってました」
    このまま続けていけばいずれ彼を抱ける日が来る。
    にい、と笑ったシグマのそれには捕食者のそれが紛れ込んでいた。
    「ねぇふたりとも、あおりんごの香りがするリップクリーム、どっかにうってる?」
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