CasinoSkyfallDOODLE大安吉日、曇天にて 北岡秀一という人間に関して思うこと。 黒を白にする辣腕弁護士。容姿端麗、眉目秀麗。自信家。優秀。お金が大好き。濡れ手に粟。 平均身長よりも大分高い身長。ダークブラウンの髪。すらりと伸びた手脚。グレーのダブルスーツ。磨き上げられた黒の革靴。 先生。 何度も何度も記憶の輪郭をなぞる。 そうしなければ、忘れてしまうから。一塵も忘れたく、ないから。 怜悧に見える瞳が、意外に甘やかな曲線を描いていることを知っている。 法廷で全てを覆す声が、少し舌っ足らずに自分の名前を呼ぶことを知っている。 子どものように我儘で、子どものように意地っ張りで。 大人だから我儘で、大人だから意地っ張りで。 だから自分に、何も残してくれなかったのだろう。 内ポケットに入れたゾルダのカードデッキに触れる。この奇妙な世界――ミラーワールドに落とされた時から手の内にあった、深緑のデッキ。皮肉にも北岡が命を落とす一つのきっかけになったそれこそが、自分と北岡を繋ぐ唯一の縁だった。硬質で冷たいそれは、あの日握った北岡の手を想起させた。 あの日、北岡は自分の腕の中で息を引き取った。命が物質に変わって 1875 1