昼に近い午前中の柔らかい日差しが、天井近くまである窓を通して差し込んでいる。窓の外には青い海がいつもと変わらない顔をして広がっていた。
空港に程近い、ホテルのレストランだ。
二人がけのテーブルには、すでに皿が並んでいる。
ガンガディアは、フェタチーズとドライトマト、柘榴の入ったシグネチャーサラダをフォークでつつきながら、さきほどからマトリフの終わらない愚痴を聞いていた。
「トムヤムガイが冷めるよ」
夏バテ気味のマトリフが辛さと酸味を好んで選んだスープだ。
引退したら釣りだけをして暮らしたいと言っていたマトリフだが、昔とった杵柄、今でも繋がりのあるビジネス仲間からの相談に乗ることがあった。
今日も朝から商談のアドバイザーとしてこのホテルのラウンジに呼ばれたのだったが、一時間もしないうちにマトリフから呼び出しの電話があり、慌てて駆けつけたガンガディアに下されたのは、なんでも好きなものを食べて良いから黙ってオレの話を聞け、というひと言だった。
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