燭台切光忠の場合 ドラックストアの化粧品コーナーをぼうっと見ていた私に、その日一緒に出掛けていた友人は言った。
「これ、今私付けてるんだけどさ」
その指が指しているのは、口紅。
「リップ?」
「全然落ちないのに乾きにくくて、すっごい良いよ」
改めて彼女の顔を見る。意識して見たことはなかったからよくわからないのだけど、確かに新色なのかもしれない。とはいえ、薦められたところで手は伸びない。
「私、あんまりリップ得意じゃないんだよねえ」
「すっごいおススメだから、試してみて」
あなたに似合うのはこれだと思う。と私の肌の色をなんだとか言いながら、友人は新色だと書かれている可愛らしいピンクを手に取る。
「えっそんな可愛い色私には似合わないよ」
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