駆け引き 人は酔うと暑くなると知ったのは、霊幻に飲みに連れられたときだった。
着ていたスーツも暑くなって脱ぎ捨て、酔い潰れた霊幻をおぶったときは背中が燃えたように暑かったのを覚えていた。翌日、互いに限界酒量を越えた摂取で二日酔いになりながら、なぜ酔うと暑くなるのか、暇な時間に霊幻が理屈を説明してくれた。アルコールで血管が拡張して、血流が早くなって起こる現象らしい。
それ以降、霊幻と飲みに行くことは今の所タイミングが合わずにないが、学校の友人に誘われてみんなが酔っ払ったときに彼の説明が頭を過ぎるようになった。
彼の言葉は芹沢の中で知識や知恵としてそこかしこに残っていた。例えば、トイレ掃除のときには酸性とアルカリ性の洗剤は混ぜないほうがいいとか、徒歩五分は大体五百メートルとか、依頼では人が嘘をつくときは、本当のことを言うときとの反応の違いと比べると分かりやすいとか。
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