狂気と山、または登山部のインターハイに出場するチームは少ない。そもそもの話、登山部が少ないから。
それでも自分は楽しくてしょうがなくてやっていた。
山を登るのは過酷だ。標高が低くても侮ってはいけない。体力配分を間違えたり、怪我をしたり、自然に足止めされることなんかいくらでもあるし。
それでもチームみんなで登頂できた時はとても気分が高揚した。
◆◆◆
「幽霊かなにかが出るらしい」という山の話を、その山に登る前に調べたことがある。
そこにあったのは、いわゆるオカルトな話だった。なにか理由があって噂が大きくなっただけだと、そう思っていた。
大きくなったという規模に収まらない、山の夜より暗く冥き、より冥い深淵。
これは些細なきっかけだっただろうか。自分はだんだんと、『そういうもの』に傾倒して。
登山仲間にもたまにそういう山を登ることを提案した。あの日までは、みんな快く承諾してくれていた。
その日は、登山前までは全てのコンディションが良かった日だ。
ただ、1人。途中から怯えたりする様子を見せるメンバーが現れた。
夜に話を聞くととにかく『変なものを見た』としか言わない。
そういう噂のある山を数回登頂すれど、こんな姿のメンバーは見たことがない。
メンバーに詳細な情報共有をすることで何を見たのか、しっかりと固めて、本当に危なければ下山の計画を立てようと思ってここがどういうところなのか話した、ら。
件のメンバーは金切り声を上げ、テントを飛び出し……地面を滑る音の後、鈍い声を上げて静かになった。
その後からは当然気まずいし、色々な噂も流れて、自分の周りにほとんど人は寄り付かなくなった。当然の結果だと思う。
そうして、僕は独りでの曰く付きの山の登山を何年もするようになった。これならあの日も二度とない。
◆◆◆
南極にある『狂気山脈』の第一次登山隊は帰る事なく、第二次として結成されたチームに自分は現在居る。……山頂を、目前に。
第一次登山隊に大切な友人がいたスティーヴくんは、その友人が残した手記の言葉を胸に山頂へ手を伸ばした。
続いて紅旗さん、僕も山頂へと立つ。
……久々に、チームと頂に立ったのかと思いを馳せた。
まだチームで行動していた学生時代のように気分が高揚する。
体力は限界に近い。
けれど、両足は達成感を支えにして、僕が『最初に見たかったもの』を見せ、憧憬を目の当たりにした気分になる。
ここに志願した目的など忘れるくらいに。
チームの会話が心地いい。紅旗さんは婚約者の名前を叫んで、あれだけ仏頂面だったスティーヴくんも笑顔を見せている。
もし誰かに悪いことが降りかかるとすれば『フランスのルイ』がお似合いではないかと片隅で思うほど、このチームを気に入ってしまった。
どうかあの日がコージー以上に悪い状態で仲間に降りかからないように、頂でどこともわからない神に祈り、また景色を眺める。