ムジカ・ユニバーサリスの賑わいの中を、ライナは水晶公に手を握られながら歩いている。沢山の人が目を留め声を掛けてくれるのは、ライナの生い立ちと、何より水晶公への厚い信頼があるからだ。
自分の育ての親が周りの大人から尊敬を集めている事実を、ライナはこどもながらに誇らしく感じていた。それが何を意味するのか言葉には出来ないが、並んでクリスタリウムを歩く時は普段より背筋が伸びるような、そういう喜びを。
「わたしもね、大きくなったらおじいちゃんのことを、すいしょうこう、って呼ぶんだ!」
お土産に買ったお菓子を机に広げて、冷たいジュースをカップに2人分注ぐ。そんな一連の所作を見守りながら、ライナはニコニコと言った。
「私としてはおじいちゃんのままでも構わないのだが……」
水晶公は目深に被ったフードの中から、少し目を丸くする。年齢から見ても早すぎる親離れでも、呼称への照れ臭さでもなく、ただ周りの真似をしたいのだと解釈した。しかし、返ってきた理由はそんなものではなく。
「でも、すいしょうこうって呼ばれるおじいちゃんは、この街でいちばんかっこいいんだよ」
ずるりと水晶公のフードが落ちて、耳がぴんと上に伸びている様子を見たライナは笑った。お揃いだね、なんて言うものだから、ふわふわと動く大きな耳を見つめていた。