しらぬいひめ じつに奇妙なお客でした。
彼(と言うように彼女には見えず)ら(と言うように[[rb:個人客 > おひとり]]でなく[[rb:二人組 > にこいち]]でした)は、とっても小さく、とてつもなくキュート、とにもかくにもいたいけでした。そのうえとびきりふくらかでした。玉座を模した豪華なソファの座面なんかよりもずっと。事実彼らはふかふかで――とそこまで言えるのはしかし、従業員の中で唯一、彼(と言うように片方ですが)に触れた花京院だけです。
厳密に言うと「花京院だけ」は嘘です。彼らをソファにのせた者もいればおろした者もいるわけで、それは花京院ではありません。ですが、ものごとには、厳密さを追求すればするほど逆にとっちらかってしまう性質があります。そうなれば本末転倒です。本来「厳密さ」は、よりこまやかに[[rb:分類 > カテゴライズ]]するためのものなのですから。なので大胆に言い切ってしまうことも時に必要になってきます。花京院だけです。いえ、触れることを目的に触れたのはほんとうに花京院だけだったのです。ともかく、そんな彼らがいきなりがつんと入れたアルマンドは、キッチンでの短い協議の末、店にある最小のグラスに注がれることになりました。
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