すろべり7話途中エアコンのきいた部屋を思い切って出ると、体中を熱風が襲った。それは名前を夏という。
「うだるような暑さとはこのことでしょうか」
巨匠が作り上げた美しい石像をそのまま体現したような彼、六弥ナギは日本姓を持ちながら、ノースメイアという北国出身であり、今年度の海外支部の新人の一人である。彼ら海外支部所属の新人となった者は、内定者研修を三月の早々に終えたのち、入社式もそぞろに海外の研修先まで出張することになる。ようやく研修を終えて帰国する頃には、日本はすでに夏といっても過言ではない気温だった。ナギの母国であるノースメイアは、オーロラの美しい国だと前に彼が言っていた。図らずも寒い国の出身である彼は、見目の麗しさとは裏腹に、眉根を寄せて暑さに打ちのめされていた。
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