Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ふわもち羊

    ハイライトの無い死んだ魚のような目が好き
    創作、TRPG、版権、ゲーム実況者FAなど

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 49

    ふわもち羊

    ☆quiet follow

    らんまほよんの傘小話

    雨が降っている。
    天気予報が外れた、にわか雨の中。残照はコンビニで買った透明な傘をさして、空を見上げながら帰路についていた。雨に関わる名前の同僚をふと思い出し、糸雨とはこんな感じの雨なのだろうか、などと考えていると、

    「にゃあ」

    猫の鳴き声が聞こえた。下を見れば、野良猫と、雨宿りしている子供の姿。どこか不安げな顔をして猫と話していた。

    「なあ、これいつ止むのかなあ」
    「にゃあ」
    「てんきよほーだと晴れだっておかあさん言ってたのになあ」
    「にゃあ」
    「はやくかえらないとおこられちゃう…」
    「にゃあ…」

    そうか、と思い当たる。この子どもは、傘を持っていないのだ、と。少しずつ強まってきた雨脚は、子どもが濡れて帰るには些か強いかもしれない。どうせおれが持っているのは安物のビニール傘だ、あげてしまっても問題はない。愛着もないことだし。

    「これ、やる」
    「え?おにーさん、誰?」
    「………猫好きのひと、だ」
    「ねこずきのひと?」
    「ああ、そうだ。とりあえず、それで帰れ。…きみのおかげで、可愛い猫、見つけたから。礼だ。ほら」
    「わっ、え、いいの?ありがとう!じゃあね!また返すね!」
    「いらない」

    元気に駆け去って行く子どもを見送りながら、さて、と猫に向き直る。せめてひと撫で、と思ったのがいけなかったのだろうか。フシャーッと威嚇されたが最後、手のひらを引っかかれて逃げ去ってしまった。ついでに雨脚もさらに強くなってきた。愛猫がいながら何をしているこの浮気者、と言わんばかりの仕打ち。子どもも早く帰れて、おれは猫を可愛がれて一石二鳥だ、と思っていたのだが。

    「…これが、二兎を追うものは一兎も得ず、か。…ん、違う、か?まあ、いいか」
    なんとかなるだろう、と駆け出して土砂降りの中帰った次の日。
    おれの見込みが甘かったと思い知らされたのは、体調を崩して酷い頭痛と寒気の中出勤し、帰宅後ベットに倒れ込んだ後だった。なるほど、あれはアウトか。次の雨の時に参考にしよう。
    重い体を引きずり、なんとか寝る体勢にはなったものの、体が熱い。水を取りに行く力も無く、ぐてりと身体をベットに横たえる。

    ぺちり。と愛猫の肉球が額に乗った。
    「…アールグレイ?どうした、珍しい、な」
    寄ってきてくれた愛猫は興味を無くしたのか、踵を返して奥に行ってしまった。違う、あれは浮気ではなくただ挨拶がしたかっただけで、などと、誰に向けてかも分からない言い訳をした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🌂🌂🌂🌈💋💋💮💕💞💛
    Let's send reactions!
    Replies from the creator